目次
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全短歌(歌集等)
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文藝春秋
ポートアイランド小景
この部屋の
二人ゐて
告げ得ざる
眠られぬ
何載せて
南風に
大粒の
さまざまに
09274
この部屋のマスターキイは誰が持つホテル十階夜の更けわたる
コノヘヤノ マスターキイハ タレガモツ ホテルジッカイ ヨノフケワタル
『文藝春秋』(文藝春秋 1983.9) p.81
09275
二人ゐて一人出でゆく気配せり隣の部屋も同じ作りか
フタリヰテ ヒトリイデユク ケハイセリ トナリノヘヤモ オナジツクリカ
『文藝春秋』(文藝春秋 1983.9) p.81
09276
告げ得ざることとしてわが思ふのみ凶のほくろを人の手に見き
ツゲエザル コトトシテワガオモフノミ キョウノホクロヲ ヒトノテニミキ
『文藝春秋』(文藝春秋 1983.9) p.81
09277
眠られぬままに思へばみどり児の金無垢といふ重さも知らぬ
ネムラレヌ ママニオモヘバ ミドリゴノ キンムクトイフ オモサモシラヌ
『文藝春秋』(文藝春秋 1983.9) p.81
09278
何載せていづこより来し帆船かマストのみあまた立てて横たふ
ナニノセテ イヅコヨリコシ ハンセンカ マストノミアマタ タテテヨコタフ
『文藝春秋』(文藝春秋 1983.9) p.81
09279
南風に吹きあふられて船籍の旗はいづこの国とも知れず
ナンプウニ フキアフラレテ センセキノ ハタハイヅコノ クニトモシレズ
『文藝春秋』(文藝春秋 1983.9) p.81
09280
大粒の涙のごとき電線のしづくにいきなり髪を打たれつ
オオツブノ ナミダノゴトキ デンセンノ シヅクニイキナリ カミヲウタレツ
『文藝春秋』(文藝春秋 1983.9) p.81
09281
さまざまにからめ取らるるわれならむ網の目の如き雲が広がる
サマザマニ カラメトラルル ワレナラム アミノメノゴトキ クモガヒロガル
『文藝春秋』(文藝春秋 1983.9) p.81