ポートアイランド小景


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この部屋のマスターキイは誰が持つホテル十階夜の更けわたる
コノヘヤノ マスターキイハ タレガモツ ホテルジッカイ ヨノフケワタル

『文藝春秋』(文藝春秋 1983.9) p.81


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二人ゐて一人出でゆく気配せり隣の部屋も同じ作りか
フタリヰテ ヒトリイデユク ケハイセリ トナリノヘヤモ オナジツクリカ

『文藝春秋』(文藝春秋 1983.9) p.81


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告げ得ざることとしてわが思ふのみ凶のほくろを人の手に見き
ツゲエザル コトトシテワガオモフノミ キョウノホクロヲ ヒトノテニミキ

『文藝春秋』(文藝春秋 1983.9) p.81


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眠られぬままに思へばみどり児の金無垢といふ重さも知らぬ
ネムラレヌ ママニオモヘバ ミドリゴノ キンムクトイフ オモサモシラヌ

『文藝春秋』(文藝春秋 1983.9) p.81


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何載せていづこより来し帆船かマストのみあまた立てて横たふ
ナニノセテ イヅコヨリコシ ハンセンカ マストノミアマタ タテテヨコタフ

『文藝春秋』(文藝春秋 1983.9) p.81


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南風に吹きあふられて船籍の旗はいづこの国とも知れず
ナンプウニ フキアフラレテ センセキノ ハタハイヅコノ クニトモシレズ

『文藝春秋』(文藝春秋 1983.9) p.81


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大粒の涙のごとき電線のしづくにいきなり髪を打たれつ
オオツブノ ナミダノゴトキ デンセンノ シヅクニイキナリ カミヲウタレツ

『文藝春秋』(文藝春秋 1983.9) p.81


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さまざまにからめ取らるるわれならむ網の目の如き雲が広がる
サマザマニ カラメトラルル ワレナラム アミノメノゴトキ クモガヒロガル

『文藝春秋』(文藝春秋 1983.9) p.81