等圧線


09292
黒皮の手袋もいつか身に添ふと吊り革の右手見をれば思ふ
クロカワノ テブクロモイツカ ミニソフト ツリカワノミギテ ミヲレバオモフ

『叙情文芸 春季号』(叙情文芸刊行会 1983.5) p.22


09293
アスファルトの路上につける子らの鞠音のはずむと見て通り来ぬ
アスファルトノ ロジョウニツケル コラノマリ オトノハズムト ミテトオリキヌ

『叙情文芸 春季号』(叙情文芸刊行会 1983.5) p.22


09294
どのやうな会話のあとか少女二人声なく坂をくだりてゆけり
ドノヤウナ カイワノアトカ ショウジョフタリ コエナクサカヲ クダリテユケリ

『叙情文芸 春季号』(叙情文芸刊行会 1983.5) p.22


09295
山茶花の垣に沿ひ来て山茶花の花の匂ひにとりかこまれぬ
サザンカノ カキニソヒキテ サザンカノ ハナノニオヒニ トリカコマレヌ

『叙情文芸 春季号』(叙情文芸刊行会 1983.5) p.22


09296
杉の秀を渡る風あり薪能を共に見し夜も星は冴えゐき
スギノホヲ ワタルカゼアリ タキギノウヲ トモニミシヨモ ホシハサエヰキ

『叙情文芸 春季号』(叙情文芸刊行会 1983.5) p.23


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雪雷のありし伝へて能登よりの夜の電話は短く切れぬ
セツライノ アリシツタヘテ ノトヨリノ ヨルノデンワハ ミジカクキレヌ

『叙情文芸 春季号』(叙情文芸刊行会 1983.5) p.23


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天気図の等圧線を見てゐしが不意にわが持つ渦とかさなる
テンキズノ トウアツセンヲ ミテヰシガ フイニワガモツ ウズトカサナル

『叙情文芸 春季号』(叙情文芸刊行会 1983.5) p.23


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せぐくまり反故燃しをれば降り出でてドラマのなかに降る雨に似る
セグクマリ ホゴモシヲレバ フリイデテ ドラマノナカニ フルアメニニル

『叙情文芸 春季号』(叙情文芸刊行会 1983.5) p.23