目次
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全短歌(歌集等)
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彩
水明り
ほほづきの
枯れ枝を
音もなく
爪先の
枯れ葦の
かりがねを
どこまでも
投げ入れし
水仕事
骨格の
さそり座の
遠き夜の
09300
ほほづきの色づきそめし草むらを教へてやらむ少女もをらず
ホホヅキノ イロヅキソメシ クサムラヲ オシヘテヤラム ショウジョモヲラズ
『彩』(新星書房 1965.6.26) p.29
09301
枯れ枝を踏みたる音にたじろげば林はいつか風やみてゐる
カレエダヲ フミタルオトニ タジロゲバ ハヤシハイツカ カゼヤミテヰル
『彩』(新星書房 1965.6.26) p.29
09302
音もなくぶつかり合へる蝶のさまかの日も茜美しかりき
オトモナク ブツカリアヘル チョウノサマ カノヒモアカネ ウツクシカリキ
『彩』(新星書房 1965.6.26) p.30
09303
爪先の痛みに吊られ歩みゐて灰色の蛾となることなきや
ツマサキノ イタミニツラレ アユミヰテ ハイイロノガト ナルコトナキヤ
『彩』(新星書房 1965.6.26) p.30
09304
枯れ葦の上を近づく風の音沼のおもては未だしづけし
カレアシノ ウエヲチカヅク カゼノオト ヌマノオモテハ イマダシヅケシ
『彩』(新星書房 1965.6.26) p.30
09305
かりがねを聴きて怯みしこころなど知られずに来てバスを待ちあふ
カリガネヲ キキテヒルミシ ココロナド シラレズニキテ バスヲマチアフ
『彩』(新星書房 1965.6.26) p.30
09306
どこまでも火の見の影が伸びてゆきそのまま暮れてしまふ街なり
ドコマデモ ヒノミノカゲガ ノビテユキ ソノママクレテ シマフマチナリ
『彩』(新星書房 1965.6.26) p.30
09307
投げ入れし紙片は風を呼びて燃ゆ束の間に過ぎしよろこびに似つ
ナゲイレシ シヘンハカゼヲ ヨビテモユ ツカノマニスギシ ヨロコビニニツ
『彩』(新星書房 1965.6.26) p.31
09308
水仕事終へし手熱き夜が来て指環抜かれし痕なまぐさし
ミズシゴト オヘシテアツキ ヨルガキテ ユビワヌカレシ アトナマグサシ
『彩』(新星書房 1965.6.26) p.31
09309
骨格のどこかゆがむと見て来し絵かの馬などが夜々に殖えゆく
コッカクノ ドコカユガムト ミテコシエ カノウマナドガ ヨヨニフエユク
『彩』(新星書房 1965.6.26) p.31
09310
さそり座の星の一つが冴ゆるとふ南国の夜も寂しかるべし
サソリザノ ホシノヒトツガ サユルトフ ナンゴクノヨモ サビシカルベシ
『彩』(新星書房 1965.6.26) p.31
09311
遠き夜の記憶還りてまどろめば蛭のごときが足裏を吸ふ
トオキヨノ キオクカエリテ マドロメバ ヒルノゴトキガ アナウラヲスフ
『彩』(新星書房 1965.6.26) p.31