目次
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全短歌(歌集等)
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彩
かたちなき岩
野火に追はれし
音立てて
結び目の
いつの日に
とめどなく
人形の
うらがへり
象なき
一摑みの
09349
野火に追はれしたかぶりもいつか醒めゆきて踏みしだかれしどくだみ匂ふ
ノビニオハレシ タカブリモイツカ サメユキテ フミシダカレシ ドクダミニオフ
『彩』(新星書房 1965.6.26) p.40
09350
音立てて土にくづほれたき日なりみだらに紅葉して立つ木あり
オトタテテ ツチニクヅホレ タキヒナリ ミダラニモミヂ シテタツキアリ
『彩』(新星書房 1965.6.26) p.40
09351
結び目のゆるむ包みを持ち直しまたゆられゆく雨夜のバスに
ムスビメノ ユルムクルミヲ モチナオシ マタユラレユク アマヨノバスニ
『彩』(新星書房 1965.6.26) p.40
09352
いつの日に入れしままなる指貫がレインコートのかくしより出づ
イツノヒニ イレシママナル ユビヌキガ レインコートノ カクシヨリイヅ
『彩』(新星書房 1965.6.26) p.40
09353
とめどなく流るる涙わが膝にまつはる犬は耳やはらかし
トメドナク ナガルルナミダ ワガヒザニ マツハルイヌハ ミミヤハラカシ
『彩』(新星書房 1965.6.26) p.41
09354
人形の髪の濡れゐる錯覚も過ぎてミモザの水替へに立つ
ニンギョウノ カミノヌレヰル サッカクモ スギテミモザノ ミズカヘニタツ
『彩』(新星書房 1965.6.26) p.41
09355
うらがへりまた裏返る海月のむれ藻となりてわれの漂ひゆけば
ウラガヘリ マタウラガエル クラゲノムレ モトナリテワレノ タダヨヒユケバ
『彩』(新星書房 1965.6.26) p.41
09356
象なき岩が夜毎に現はれて水のゆくへを塞がむとする
カタチナキ イワガヨゴトニ アラハレテ ミズノユクヘヲ フサガムトスル
『彩』(新星書房 1965.6.26) p.41
09357
一摑みの籾あらば生命ひらかれむ目ざめに思ふこともつたなし
ヒトツマミノ モミアラバイノチ ヒラカレム メザメニオモフ コトモツタナシ
『彩』(新星書房 1965.6.26) p.41