濡れし落ち葉


09358
不知火の夜の近づくを告げて来て君も寂しき過去を持つ
シラヌヒノ ヨノチカヅクヲ ツゲテキテ キミモサビシキ スギユキヲモツ

『彩』(新星書房 1965.6.26) p.42


09359
知るべ少なきこの坂の町遅くまで点してわれを待つ花屋あり
シルベスクナキ コノサカノマチ オソクマデ トモシテワレヲ マツハナヤアリ

『彩』(新星書房 1965.6.26) p.42


09360
選ばれて化石となるといふ言葉濡れし落ち葉を掃きつつ思ふ
エラバレテ カセキトナルト イフコトバ ヌレシオチバヲ ハキツツオモフ

『彩』(新星書房 1965.6.26) p.42


09361
風落ちし夕べとなりて行く水は浅瀬の音を立て始めたり
カゼオチシ ユウベトナリテ ユクミズハ アサセノオトヲ タテハジメタリ

『彩』(新星書房 1965.6.26) p.42


09362
幾たびか夜霧の原に出でて呼ぶ放れし仔犬呼ぶごとくして
イクタビカ ヨギリノハラニ イデテヨブ ハナレシコイヌ ヨブゴトクシテ

『彩』(新星書房 1965.6.26) p.43


09363
煙もて空に占ふ何あらむ落ち葉を焚けば風が集まる
ケムリモテ ソラニウラナフ ナニアラム オチバヲタケバ カゼガアツマル

『彩』(新星書房 1965.6.26) p.43


09364
死後の火を畏れゐし母水晶の念珠ばかりが地下に残らむ
シゴノヒヲ オソレヰシハハ スイショウノ ネンジュバカリガ チカニノコラム

『彩』(新星書房 1965.6.26) p.43


09365
ひび入りて伏せ置く大き甕一つみどり児の声漏るる夜無きか
ヒビイリテ フセオクオオキ カメヒトツ ミドリゴノコエ モルルヨナキカ

『彩』(新星書房 1965.6.26) p.43


09366
次々にわが生み続けし蛾のむれのはばたく音にまみれて眠る
ツギツギニ ワガウミツヅケシ ガノムレノ ハバタクオトニ マミレテネムル

『彩』(新星書房 1965.6.26) p.43