09381
悪霊を逐はむ願ひはわれも持つ夜々に野火焚く村を過ぎつつ
アクリョウヲ　オハムネガヒハ　ワレモモツ　ヨヨニノビタク　ムラヲスギツツ

09382
再びの忌の夜に思ふ病み痩せて枇杷をむきゐし白き指先
フタタビノ　キノヨニオモフ　ヤミヤセテ　ビワヲムキヰシ　シロキユビサキ

09383
落ち柚子の腐つ香土に漂へば夜の更けてまた雨降り出でむ
オチユズノ　クダツコウドニ　タダヨヘバ　ヨノフケテマタ　アメフリイデム

09384
篝り火が雪の飛沫をはじく音まぼろしの城潰えし後も
カガリビガ　ユキノヒマツヲ　ハジクオト　マボロシノシロ　ツヒエシノチモ

09385
製材の音も歯ぐきにくひこむとよりどころなく臥す一日あり
セイザイノ　オトモハグキニ　クヒコムト　ヨリドコロナク　フスヒトヒアリ

09386
凪ぎ深き沼の曇りに倦むごとくしきりに潜く白鳥のかげ
ナギフカキ　ヌマノクモリニ　ウムゴトク　シキリニカヅク　ハクチョウノカゲ

09387
橋桁のほとりまで来て消されたる野火の跡あり踏みつつ帰る
ハシゲタノ　ホトリマデキテ　ケサレタル　ノビノアトアリ　フミツツカエル

09388
木鋏を鳴らして冬の枝を断つ芽ぐめる薔薇も容赦なく断つ
キバサミヲ　ナラシテフユノ　エダヲタツ　メグメルバラモ　ヨウシャナクタツ

09389
耳ぎはの髪が吹かれてめざめたりそよぐ木の葉は何方ならむ
ミミギハノ　カミガフカレテ　メザメタリ　ソヨグコノハハ　イズカタナラム