すずかけの幹


09631
傷あとのひとすぢうすく見えゐしが遠く音なくかりがね渡る
キズアトノ ヒトスヂウスク ミエヰシガ トオクオトナク カリガネワタル

『ぼあ』( 1985.9) p.6


09632
大き荷を背負へる人の声もなくマンションのドアに吸はれてゆけり
オオキニヲ セオヘルヒトノ コエモナク マンションノドアニ スハレテユケリ

『ぼあ』( 1985.9) p.6


09633
うら寒く予想して来しことながらまざまざと見てテーブル隔つ
ウラサムク ヨソウシテコシ コトナガラ マザマザトミテ テーブルヘダツ

『ぼあ』( 1985.9) p.6


09634
ブラインドおろされむとし目の前の篠懸の幹もずたずたになる
ブラインド オロサレムトシ メノマエノ スズカケノミキモ ズタズタニナル

『ぼあ』( 1985.9) p.6


09635
コーヒーはにがかりしかな灰皿をよごししのみに別れ来にけり
コーヒーハ ニガカリシカナ ハイザラヲ ヨゴシシノミニ ワカレキニケリ

『ぼあ』( 1985.9) p.6


09636
十一時十五分を指してゐし時計うつつとも絵ともなくて記憶す
ジュウイチジ ジュウゴフンヲサシテ ヰシトケイ ウツツトモエトモ ナクテキオクス

『ぼあ』( 1985.9) p.6


09637
綻びをつくろはずゐる如き日をかさねつつ秋もふけゆかむとす
ホコロビヲ ツクロハズヰル ゴトキヒヲ カサネツツアキモ フケユカムトス

『ぼあ』( 1985.9) p.6