目次
/
全短歌(歌集等)
/
現代短歌雁
冬唱
こだまさへ
岩鼻を
鳴き声を
竹林の
寄り合ひを
稲藁の
白木綿の
少年は
木簡の
誰が星と
茫漠と
知り人の
首寄せて
降りながら
耐へをれば
夜の底に
09651
こだまさへ還ることなきはろけさに古墳といへど枯れ草の丘
コダマサヘ カエルコトナキ ハロケサニ コフントイヘド カレクサノオカ
『現代短歌雁』(雁書館 1987.7) 3号 p.96
09652
岩鼻を獅子に見立てて獅子岩と呼ぶ伝承に守られて来し
イワハナヲ シシニミタテテ シシイワト ヨブデンショウニ マモラレテコシ
『現代短歌雁』(雁書館 1987.7) 3号 p.96
09653
鳴き声を散らして飛ぶは何の鳥鴉は太き声に物言ふ
ナキゴエヲ チラシテトブハ ナンノトリ カラスハフトキ コエニモノイフ
『現代短歌雁』(雁書館 1987.7) 3号 p.96
09654
竹林の秀をひきしぼりひきしぼり絞り切れざる風のごとしも
チクリンノ ホヲヒキシボリ ヒキシボリ シボリキレザル カゼノゴトシモ
『現代短歌雁』(雁書館 1987.7) 3号 p.96
09655
寄り合ひを終へし人らか出でて来て背中まるめて突風のなか
ヨリアヒヲ オヘシヒトラカ イデテキテ セナカマルメテ トップウノナカ
『現代短歌雁』(雁書館 1987.7) 3号 p.96
09656
稲藁の束は濡れゐて目の前に投げ出されたる体のごとしも
イナワラノ タバハヌレヰテ メノマエニ ナゲダサレタル カラダノゴトシモ
『現代短歌雁』(雁書館 1987.7) 3号 p.96
09657
白木綿の折れてくねりて凍りたる滝はさだかに流路を見しむ
シラユフノ オレテクネリテ コオリタル タキハサダカニ リュウロヲミシム
『現代短歌雁』(雁書館 1987.7) 3号 p.97
09658
少年は兄弟ならむ年かさの声が嗄れゐてバスを待ちあふ
ショウネンハ キョウダイナラム トシカサノ コエガカレヰテ バスヲマチアフ
『現代短歌雁』(雁書館 1987.7) 3号 p.97
09659
木簡のきれぎれのなか橘といふ文字を読み得て香の立つごとし
モッカンノ キレギレノナカ キツトイフ モジヲヨミエテ カノタツゴトシ
『現代短歌雁』(雁書館 1987.7) 3号 p.97
09660
誰が星と思ふならねど夕まけて空の巽に光る星あり
タガホシト オモフナラネド ユウマケテ ソラノタツミニ ヒカルホシアリ
『現代短歌雁』(雁書館 1987.7) 3号 p.97
09661
茫漠と明るかりしが網目よりぬけ出でて月の光となりぬ
ボウバクト アカルカリシガ アミメヨリ ヌケイデテツキノ ヒカリトナリヌ
『現代短歌雁』(雁書館 1987.7) 3号 p.97
09662
知り人の営む宿はひらがなの会津八一の書も親しけれ
シリビトノ イトナムヤドハ ヒラガナノ アイヅヤイチノ ショモシタシケレ
『現代短歌雁』(雁書館 1987.7) 3号 p.97
09663
首寄せてありし人形のたちまちにかたき同士となりて揉みあふ
クビヨセテ アリシクグツノ タチマチニ カタキドウシト ナリテモミアフ
『現代短歌雁』(雁書館 1987.7) 3号 p.97
09664
降りながら溶けゐる雪のけはひして父の忌の日も暮れゆかむとす
フリナガラ トケヰルユキノ ケハヒシテ チチノキノヒモ クレユカムトス
『現代短歌雁』(雁書館 1987.7) 3号 p.97
09665
耐へをれば耐へ得るわれと思はれて長き月日を交はりて来ぬ
タヘヲレバ タヘウルワレト オモハレテ ナガキツキヒヲ マジハリテキヌ
『現代短歌雁』(雁書館 1987.7) 3号 p.97
09666
夜の底に芯澄みて燭の火の燃ゆと夢ともうつつともなく思ひをり
ヨノソコニ シンスミテショクノ ヒノモユト ユメトモウツツトモ ナクオモヒヲリ
『現代短歌雁』(雁書館 1987.7) 3号 p.97