目次
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全短歌(歌集等)
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現代短歌雁
今日の顔
右の耳を
山桜
同じものを
断ちがたき
鏡より
出でて来て
低く飛ぶ
かぶさりて
ピノキオの
人に告げぬ
わが孫の
幾つもに
毀ちたる
はやぶさと
畳まれて
宵に咲く
種子の生らぬ
隙間なく
夜の空を
千年を
09682
右の耳をうづめて眠りゐたるまに春の嵐の一つ過ぎゐし
ミギノミミヲ ウヅメテネムリ ヰタルマニ ハルノアラシノ ヒトツスギヰシ
『現代短歌雁』(雁書館 1989.1) 12号 p.40
09683
山桜花の散りしく明るさに白拍子など出でて舞はずや
ヤマザクラ ハナノチリシク アカルサニ シラビヤウシナド イデテマハズヤ
『現代短歌雁』(雁書館 1989.1) 12号 p.40
09684
同じものを食みあひてくらしたる日あり他界のことの如くに思ふ
オナジモノヲ ハミアヒテクラシ タルヒアリ タカイノコトノ ゴトクニオモフ
『現代短歌雁』(雁書館 1989.1) 12号 p.40
09685
断ちがたき願ひなれども頬の紅やや濃く刷きて今日の顔とす
タチガタキ ネガヒナレドモ ホオノベニ ヤヤコクハキテ キョウノカオトス
『現代短歌雁』(雁書館 1989.1) 12号 p.40
09686
鏡より顔を剥がしてふり向けば何かが立ちてゐて隠れたり
カガミヨリ カオヲハガシテ フリムケバ ナニカガタチテ ヰテカクレタリ
『現代短歌雁』(雁書館 1989.1) 12号 p.40
09687
出でて来て人は小さくビル群の棒線グラフにとりかこまるる
イデテキテ ヒトハチイサク ビルグンノ ボウセングラフニ トリカコマルル
『現代短歌雁』(雁書館 1989.1) 12号 p.40
09688
低く飛ぶヘリコプターを仰ぐ目の水晶体の斑もさびしけれ
ヒククトブ ヘリコプターヲ アオグメノ スイショウタイノ フモサビシケレ
『現代短歌雁』(雁書館 1989.1) 12号 p.40
09689
かぶさりて樟の大樹は生ひゐしが体育館も木蔭もあらず
カブサリテ クスノタイジュハ オヒヰシガ タイイクカンモ コカゲモアラズ
『現代短歌雁』(雁書館 1989.1) 12号 p.40
09690
ピノキオの人形なりしころのままぎくしやくとありわれもわが身も
ピノキオノ ニンギョウナリシ コロノママ ギクシヤクトアリ ワレモワガミモ
『現代短歌雁』(雁書館 1989.1) 12号 p.40
09691
人に告げぬ秘密となしき風信子をヒアシンスの名と知りしことなど
ヒトニツゲヌ ヒミツトナシキ フウシンシヲ ヒアシンスノナト シリシコトナド
『現代短歌雁』(雁書館 1989.1) 12号 p.40
09692
わが孫のほどの少女よ声もなく日傘をさしてボートにゐしは
ワガマゴノ ホドノショウジョヨ コエモナク ヒガサヲサシテ ボートニヰシハ
『現代短歌雁』(雁書館 1989.1) 12号 p.41
09693
幾つもに音を区切りて貨車は行き違ふ風景が見えくるごとし
イクツモニ オトヲクギリテ カシャハユキ チガフフウケイガ ミエクルゴトシ
『現代短歌雁』(雁書館 1989.1) 12号 p.41
09694
毀ちたる家屋の木ぎれ燃す見れば得体の知れぬものも燃すなり
コボチタル カオクノキギレ モスミレバ エタイノシレヌ モノモモスナリ
『現代短歌雁』(雁書館 1989.1) 12号 p.40
09695
はやぶさと呼ぶ戦闘機ありにしがかげろふを追ふごときはろけさ
ハヤブサト ヨブセントウキ アリニシガ カゲロフヲオフ ゴトキハロケサ
『現代短歌雁』(雁書館 1989.1) 12号 p.41
09696
畳まれて届く小さき正方形眼鏡を磨く新素材とぞ
タタマレテ トドクチイサキ セイホウケイ メガネヲミガク シンソザイトゾ
『現代短歌雁』(雁書館 1989.1) 12号 p.41
09697
宵に咲く花のめざむるころならむ榛の幹よりたそがれそめぬ
ヨイニサク ハナノメザムル コロナラム ハンノミキヨリ タソガレソメヌ
『現代短歌雁』(雁書館 1989.1) 12号 p.41
09698
種子の生らぬ三倍体の花といふ風の絶えたる夜目にゆれあふ
シュシノナラヌ サンバイタイノ ハナトイフ カゼノタエタル ヨメニユレアフ
『現代短歌雁』(雁書館 1989.1) 12号 p.41
09699
隙間なく活字詰まれる紙面より飛び出してくるわれの名あはれ
スキマナク カツジツマレル シメンヨリ トビダシテクル ワレノナアハレ
『現代短歌雁』(雁書館 1989.1) 12号 p.41
09700
夜の空を翔けて落ちしは何の鳥今際の声と思ふ声せり
ヨノソラヲ カケテオチシハ ナンノトリ イマハノコエト オモフコエセリ
『現代短歌雁』(雁書館 1989.1) 12号 p.41
09701
千年を生くるにあらず中天に白くたゆたふ月夜の雲は
センネンヲ イクルニアラズ チュウテンニ シロクタユタフ ツキヨノクモハ
『現代短歌雁』(雁書館 1989.1) 12号 p.41