風聞


09702
繭いろの雲がちぎれて飛びゐしに思ひもかけぬ太き雨降る
マユイロノ クモガチギレテ トビヰシニ オモヒモカケヌ フトキアメフル

『現代短歌雁』(雁書館 1991.4) 18号 p.84


09703
烏瓜熟れて点れり最後かも知れぬと思ふ夏も終はりて
カラスウリ ウレテトモレリ サイゴカモ シレヌトオモフ ナツモオハリテ

『現代短歌雁』(雁書館 1991.4) 18号 p.84


09704
いつの世のことなりにしやわれひとり蚊遣りを焚きて機を織りゐき
イツノヨノ コトナリニシヤ ワレヒトリ カヤリヲタキテ ハタヲオリヰキ

『現代短歌雁』(雁書館 1991.4) 18号 p.84


09705
復元の民家の大きくらがりに火伏せの札の貼られゐる見つ
フクゲンノ ミンカノオオキ クラガリニ ヒフセノフダノ ハラレヰルミツ

『現代短歌雁』(雁書館 1991.4) 18号 p.84


09706
亡き人をあしざまに言ふを聞きをればわが死のあとのはかり知られず
ナキヒトヲ アシザマニイフヲ キキヲレバ ワガシノアトノ ハカリシラレズ

『現代短歌雁』(雁書館 1991.4) 18号 p.84


09707
本ばかり積み置く家を如何に見てセールスマンは帰りしならむ
ホンバカリ ツミオクイエヲ イカニミテ セールスマンハ カエリシナラム

『現代短歌雁』(雁書館 1991.4) 18号 p.84


09708
電車の窓のどこかあきゐておぶはれしみどりごの髪ふはふは吹かる
デンシャノマドノ ドコカアキヰテ オブハレシ ミドリゴノカミ フハフハフカル

『現代短歌雁』(雁書館 1991.4) 18号 p.85


09709
同じ家族の住みゐる見れば建て替へて大きくなりしのみなる家か
オナジカゾクノ スミヰルミレバ タテカヘテ オオキクナリシ ノミナルイエカ

『現代短歌雁』(雁書館 1991.4) 18号 p.85


09710
本当に鍵あけて棚をのがれしや吠ゆるほかなくこの犬はゐる
ホントウニ カギアケテタナヲ ノガレシヤ ホユルホカナク コノイヌハヰル

『現代短歌雁』(雁書館 1991.4) 18号 p.85


09711
桃いろのガーベラは花の大きくてわれには普通のガーベラが良き
モモイロノ ガーベラハハナノ オオキクテ ワレニハフツウノ ガーベラガヨキ

『現代短歌雁』(雁書館 1991.4) 18号 p.85


09712
名を変へて移り住まむとしてゐたり生き生きと夢のなかなるわれは
ナヲカヘテ ウツリスマムト シテヰタリ イキイキトユメノ ナカナルワレハ

『現代短歌雁』(雁書館 1991.4) 18号 p.85


09713
越しゆける向かひの家の鳩時計どこのマンションに二時を打ちゐむ
コシユケル ムカヒノイエノ ハトドケイ ドコノマンションニ ニジヲウチヰム

『現代短歌雁』(雁書館 1991.4) 18号 p.85


09714
窓枠の高さに届かぬ子もをりて保母をかこみてうごき回れる
マドワクノ タカサニトドカヌ コモヲリテ ホボヲカコミテ ウゴキマワレル

『現代短歌雁』(雁書館 1991.4) 18号 p.85


09715
咲き残る帰化植物の黄の花は丈高く火炎のかたちを掲ぐ
サキノコル キカショクブツノ キノハナハ タケタカクカエンノ カタチヲカカグ

『現代短歌雁』(雁書館 1991.4) 18号 p.85


09716
集ひても散りても色のとりどりに大き声せり老いし人らは
ツドヒテモ チリテモイロノ トリドリニ オオキコエセリ オイシヒトラハ

『現代短歌雁』(雁書館 1991.4) 18号 p.85


09717
冬ざくら見むと車を降りしとき不意の寒さは顔にあつまる
フユザクラ ミムトクルマヲ オリシトキ フイノサムサハ カオニアツマル

『現代短歌雁』(雁書館 1991.4) 18号 p.85