目次
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全短歌(歌集等)
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律
訴人の貌
どくだみの
手を引かれ
どよめく
醒めてより
一本の
スリッパの
たどきなき
鍾愛の
貝積みて
石切り場を
一瞬の
クレパスの
09718
どくだみの花夜々土に咲きみちて雨降れば音にまぎれて眠る
ドクダミノ ハナヨヨツチニ サキミチテ アメフレバオトニ マギレテネムル
『律』(律編集所 1962.6) 2号 p.82
09719
手を引かれのがれし記憶はろけきに矩形に水を溜めゐしコート
テヲヒカレ ノガレシキオク ハロケキニ クケイニミズヲ タメヰシコート
『律』(律編集所 1962.6) 2号 p.82
09720
どよめく群衆のなか一本の旗とわれはなりてゆさぶられゐつ
ドヨメク グンシュウノナカ イッポンノハタ トワレハナリテ ユサブラレヰツ
『律』(律編集所 1962.6) 2号 p.82
09721
醒めてより計れば速し流体となりてほろびしまでの時間
サメテヨリ ハカレバハヤシ リュウタイト ナリテホロビシ マデノジカン
『律』(律編集所 1962.6) 2号 p.82
09722
一本のアッシュの杖を遺す部屋背教は今もわが身に疼く
イッポンノ アッシュノツエヲ ノコスヘヤ ハイキョウハイマモ ワガミニウズク
『律』(律編集所 1962.6) 2号 p.82
09723
スリッパのちらばる廊下抜け来しが訴人の貌はみづからも持つ
スリッパノ チラバルロウカ ヌケコシガ ソニンノカオハ ミヅカラモモツ
『律』(律編集所 1962.6) 2号 p.83
09724
たどきなき闇と思ひつ手探りに切符を捜す鞄の底も
タドキナキ ヤミトオモヒツ テサグリニ キップヲサガス カバンノソコモ
『律』(律編集所 1962.6) 2号 p.83
09725
鍾愛の記憶いぶせし何時となく身に浸剤の香がまつはれば
ショウアイノ キオクイブセシ イツトナク ミニシンザイノ カガマツハレバ
『律』(律編集所 1962.6) 2号 p.83
09726
貝積みて墓標となせし古事なきや踵埋めつつあかるき渚
カイツミテ ボヒョウトナセシ コジナキヤ カカトウメツツ アカルキナギサ
『律』(律編集所 1962.6) 2号 p.83
09727
石切り場を西の斜面に持てる丘月さして遺跡のごとく鎭まる
イシキリバヲ ニシノシャメンニ モテルオカ ツキサシテイセキノ ゴトクシズマル
『律』(律編集所 1962.6) 2号 p.83
09728
一瞬の心騒ぎつ口もとを直す鏡の反射が飛べば
イッシュンノ ココロサワギツ クチモトヲ ナオスカガミノ ハンシャガトベバ
『律』(律編集所 1962.6) 2号 p.83
09729
クレパスの黒のみ減らしゑがくごとあやつる語彙の偏りやすし
クレパスノ クロノミヘラシ ヱガクゴト アヤツルゴイノ カタヨリヤスシ
『律』(律編集所 1962.6) 2号 p.83