目次
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全短歌(歌集等)
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律
椿のうた
椿の木に
次々に
花咲ける
スパイクの
脅えやすき
やみがたく
変生の
色盲を
<落ちざまに
風を得て
墓の辺に
殺戮の
埃吹く
幽明を
効用を
09730
椿の木に変へられてなほ生きたきに日々に重たし諸手の花は
ツバキノキニ カヘラレテナホ イキタキニ ヒビニオモタシ モロテノハナハ
『律』(律発行所 1963.9) 3号 p.95
09731
次々に切り倒さるる木々の中苦しむために切り残されむ
ツギツギニ キリタオサルル キギノナカ クルシムタメニ キリノコサレム
『律』(律発行所 1963.9) 3号 p.95
09732
花咲けるゆゑに一本残されてまともに風を浴ぶる木となる
ハナサケル ユヱニヒトモト ノコサレテ マトモニカゼヲ アブルキトナル
『律』(律発行所 1963.9) 3号 p.95
09733
スパイクのままわが幹をよぢ昇る児よ下枝を撓めて待てば
スパイクノ ママワガミキヲ ヨヂノボル コヨシタエダヲ タワメテマテバ
『律』(律発行所 1963.9) 3号 p.95
09734
脅えやすき少女のために夜の雪墜堪へてゐたりきゆき過ぐるまで
オビエヤスキ ショウジョノタメニ ヨノシヅレ タヘテヰタリキ ユキスグルマデ
『律』(律発行所 1963.9) 3号 p.95
09735
やみがたく伸ばす根いつかなきがらの母の頭蓋を砕く日あらむ
ヤミガタク ノバスネイツカ ナキガラノ ハハノズガイヲ クダクヒアラム
『律』(律発行所 1963.9) 3号 p.95
09736
変生の後に届きし手紙にて取り返しのつかぬことばかりなる
ヘンセイノ ノチニトドキシ テガミニテ トリカエシノツカヌ コトバカリナル
『律』(律発行所 1963.9) 3号 p.95
09737
色盲を見破られ来し少年に仰がれて褪せしわが花のいろ
シキモウヲ ミヤブラレコシ ショウネンニ アオガレテアセシ ワガハナノイロ
『律』(律発行所 1963.9) 3号 p.95
09738
<落ちざまに水こぼしけり花椿>芭蕉を超えず木となりてなほ
オチザマニ ミズコボシケリ ハナツバキ バショウヲコエズ キトナリテナホ
『律』(律発行所 1963.9) 3号 p.95
09739
風を得て一夜にわれのこぼす花貧しき町の子らが拾はむ
カゼヲエテ ヒトヨニワレノ コボスハナ マズシキマチノ コラガヒロハム
『律』(律発行所 1963.9) 3号 p.95
09740
墓の辺に撒き散らしたる贅のごとわが足もとの落花にぎはふ
ハカノベニ マキチラシタル ゼイノゴト ワガアシモトノ ラツカニギハフ
『律』(律発行所 1963.9) 3号 p.95
09741
殺戮の跡のごとしと呟けり義足に花を踏みしだきつつ
サツリクノ アトノゴトシト ツブヤケリ ギソクニハナヲ フミシダキツツ
『律』(律発行所 1963.9) 3号 p.95
09742
埃吹く季節は長し葉がくれに無数の子らをはぐくむわれに
ホコリフク キセツハナガシ ハガクレニ ムスウノコラヲ ハグクムワレニ
『律』(律発行所 1963.9) 3号 p.95
09743
幽明をさまよひゆけばたをやかにありけむマルグリータも老いぬ
ユウメイヲ サマヨヒユケバ タヲヤカニ アリケムマルグ リータモオイヌ
『律』(律発行所 1963.9) 3号 p.95
09744
効用を持ちて運ばれゆかむとしわが実ら黒く籠に輝けり
コウヨウヲ モチテハコバレ ユカムトシ ワガミラクロク コニカガヤケリ
『律』(律発行所 1963.9) 3号 p.95