自画像


09780
からくりの人形は箱にしまはれて人形もわれもくらやみのなか
カラクリノ ニンギョウハハコニ シマハレテ ニンギョウモワレモ クラヤミノナカ

『大宮文芸』(大宮市教育委員会 1981.11) 9号 p.10


09781
面壁とはおのれに向ふことならむおのれといふも単純ならず
メンペキトハ オノレニムカフ コトナラム オノレトイフモ タンジュンナラズ

『大宮文芸』(大宮市教育委員会 1981.11) 9号 p.10


09782
タクシーの窓のガラスの幅だけの帯のやうなる枯れ野を行けり
タクシーノ マドノガラスノ ハバダケノ オビノヤウナル カレノヲユケリ

『大宮文芸』(大宮市教育委員会 1981.11) 9号 p.10


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自画像の頬をこの夜もそぎゐつつ極道と呼ぶ生き方に似む
ジガゾウノ ホオヲコノヨモ ソギヰツツ ゴクドウトヨブ イキカタニニム

『大宮文芸』(大宮市教育委員会 1981.11) 9号 p.10


09784
夢に見て夢と知りつつあざむけり欺くことのふとこころよく
ユメニミテ ユメトシリツツ アザムケリ アザムクコトノ フトココロヨク

『大宮文芸』(大宮市教育委員会 1981.11) 9号 p.10


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幼な子の声などしたることなくて積みおく本を見回す日あり
オサナゴノ コエナドシタル コトナクテ ツミオクホンヲ ミマワスヒアリ

『大宮文芸』(大宮市教育委員会 1981.11) 9号 p.10


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絨緞に音を吸はせて何事をなし来し人か歩み去りたり
ジュウタンニ オトヲスハセテ ナニゴトヲ ナシコシヒトカ アユミサリタリ

『大宮文芸』(大宮市教育委員会 1981.11) 9号 p.10


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春の雲のふくらむ見れば錯誤さへ身に華やげる日のありにけり
ハルノクモノ フクラムミレバ サクゴサヘ ミニハナヤゲル ヒノアリニケリ

『大宮文芸』(大宮市教育委員会 1981.11) 9号 p.10


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雨あとは虫の祭りの日ならむか蛾も蝶も出でてはたはたと飛ぶ
アメアトハ ムシノマツリノ ヒナラムカ ガモチョウモイデテ ハタハタトトブ

『大宮文芸』(大宮市教育委員会 1981.11) 9号 p.10


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はろばろと幟なびけて虫送りの行列などはいづち行きけむ
ハロバロト ノボリナビケテ ムシオクリノ ギョウレツナドハ イヅチユキケム

『大宮文芸』(大宮市教育委員会 1981.11) 9号 p.10