人形のこゑ


09790
行き着かぬ思ひにをれば昼過ぎて煙のごとき雨の降り出づ
ユキツカヌ オモヒニヲレバ ヒルスギテ ケムリノゴトキ アメノフリイヅ

『大宮文芸』(大宮市教育委員会 1982.11) 10号 p.10


09791
槇の葉を打つ雨だれを見てゐしがまして乱るる犬蓼の葉は
マキノハヲ ウツアマダレヲ ミテヰシガ マシテミダルル イヌタデノハハ

『大宮文芸』(大宮市教育委員会 1982.11) 10号 p.10


09792
妻を得てユトレヒトに今は住むというユトレヒトにも雨降るらむか
ツマヲエテ ユトレヒトニイマハ スムトイウ ユトレヒトニモ アメフルラムカ

『大宮文芸』(大宮市教育委員会 1982.11) 10号 p.10


09793
ヒロインの異国へのがるる場面にて船腹を打つ波の荒れたり
ヒロインノ イコクヘノガルル バメンニテ センプクヲウツ ナミノアレタリ

『大宮文芸』(大宮市教育委員会 1982.11) 10号 p.10


09794
それぞれの闇をまとひて立つ木々にまじりて立たばわれは何の木
ソレゾレノ ヤミヲマトヒテ タツキギニ マジリテタタバ ワレハナンノキ

『大宮文芸』(大宮市教育委員会 1982.11) 10号 p.10


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荷となるを恐れて置ける土の鈴ことばやさしき人に買はれよ
ニトナルヲ オソレテオケル ツチノスズ コトバヤサシキ ヒトニカハレヨ

『大宮文芸』(大宮市教育委員会 1982.11) 10号 p.10


09796
等身の人形の笑ひし声かとも驚き易く地下街をゆく
トウシンノ ニンギョウノワラヒシ コエカトモ オドロキヤスク チカガイヲユク

『大宮文芸』(大宮市教育委員会 1982.11) 10号 p.10


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駅前の放置自転車神々に見放されたる病のごとし
エキマエノ ホウチジテンシャ カミガミニ ミハナサレタル ヤマイノゴトシ

『大宮文芸』(大宮市教育委員会 1982.11) 10号 p.10


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黄の花の多き季節よ人は去りまばらに墓の取り残されぬ
キノハナノ オオキキセツヨ ヒトハサリ マバラニハカノ トリノコサレヌ

『大宮文芸』(大宮市教育委員会 1982.11) 10号 p.10


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われの道蝶の道目に見えねども古地図に江戸の街路ととのふ
ワレノミチ チョウノミチメニ ミエネドモ コチズニエドノ ガイロトトノフ

『大宮文芸』(大宮市教育委員会 1982.11) 10号 p.10