絵本の海


09805
まどろみて津波の夢を見てゐたり湾岸道路をゆくバスのなか
マドロミテ ツナミノユメヲ ミテヰタリ ワンガンドウロヲ ユクバスノナカ

『大宮文芸』(大宮市教育委員会 1985.11) 13号 p.10


09806
トンネルを出でし刹那の海の青絵本の海のやうにひろがる
トンネルヲ イデシセツナノ ウミノアオ エホンノウミノ ヤウニヒロガル

『大宮文芸』(大宮市教育委員会 1985.11) 13号 p.10


09807
かつて聞き忘れてゐたる噂なれ翳ふかめをり今日また聞けば
カツテキキ ワスレテヰタル ウワサナレ カゲフカメヲリ キョウマタキケバ

『大宮文芸』(大宮市教育委員会 1985.11) 13号 p.10


09808
ブラインドおろされむとし目の前の街路樹の幹もずたずたになる
ブラインド オロサレムトシ メノマエノ ガイロジュノミキモ ズタズタニナル

『大宮文芸』(大宮市教育委員会 1985.11) 13号 p.10


09809
思はざる大きさにして鴉一羽黒衣の使者のごとくおりくる
オモハザル オオキサニシテ カラスイチワ コクイノシシャノ ゴトクオリクル

『大宮文芸』(大宮市教育委員会 1985.11) 13号 p.10


09810
鍵しめて出づる習ひのふと寂し通りまで人を送らむとして
カギシメテ イヅルナラヒノ フトサビシ トオリマデヒトヲ オクラムトシテ

『大宮文芸』(大宮市教育委員会 1985.11) 13号 p.10


09811
ゆるみゐるコートのボタンそのままに出で来て遠しバスまでの道
ユルミヰル コートノボタン ソノママニ イデキテトオシ バスマデノミチ

『大宮文芸』(大宮市教育委員会 1985.11) 13号 p.10


09812
街上にあふれてゐたる歩行者のいづこに失せていま星月夜
ガイジョウニ アフレテヰタル ホコウシャノ イヅコニウセテ イマホシツキヨ

『大宮文芸』(大宮市教育委員会 1985.11) 13号 p.10


09813
うす皮を一枚一枚剥ぎゆきて何に到らむわれとも知れず
ウスカワヲ イチマイイチマイ ハギユキテ ナニニイタラム ワレトモシレズ

『大宮文芸』(大宮市教育委員会 1985.11) 13号 p.10


09814
綻びをつくろはずゐる如き日をかさねつつ秋もふけゆかむとす
ホコロビヲ ツクロハズヰル ゴトキヒヨ カサネツツアキモ フケユカムトス

『大宮文芸』(大宮市教育委員会 1985.11) 13号 p.10