光の粒


09845
ときじくのまなかひに降る日照り雨光の粒を撒くごとく降る
トキジクノ マナカヒニフル ヒデリアメ ヒカリノツブヲ マクゴトクフル

『大宮文芸』(大宮市教育委員会 1991.11) 19号 p.10


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どのやうにおろされにけむかの大き薬種問屋の看板などは
ドノヤウニ オロサレニケム カノオオキ ヤクシュドンヤノ カンバンナドハ

『大宮文芸』(大宮市教育委員会 1991.11) 19号 p.10


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幾人も住むかのやうに灯をともすフランスパンを抱き帰り来て
イクニンモ スムカノヤウニ ヒヲトモス フランスパンヲ イダキカエリキテ

『大宮文芸』(大宮市教育委員会 1991.11) 19号 p.10


09848
なかで何か起こりゐるとも知らぬまま持ち歩く箱のごとし体は
ナカデナニカ オコリヰルトモ シラヌママ モチアルクハコノ ゴトシカラダハ

『大宮文芸』(大宮市教育委員会 1991.11) 19号 p.10


09849
スカートのひだをたたみて寝押しすと余念なかりし夜毎の少女
スカートノ ヒダヲタタミテ ネオシスト ヨネンナカリシ ヨゴトノショウジョ

『大宮文芸』(大宮市教育委員会 1991.11) 19号 p.10


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近づけば眼鏡光りてからしいろの秋のスーツがよく似合ひたり
チカヅケバ メガネヒカリテ カラシイロノ アキノスーツガ ヨクニアヒタリ

『大宮文芸』(大宮市教育委員会 1991.11) 19号 p.10


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園児らの三分の一ほど残されて踏切の手前しばし賑はふ
エンジラノ サンブンノイチホド ノコサレテ フミキリノテマエ シバシニギハフ

『大宮文芸』(大宮市教育委員会 1991.11) 19号 p.10


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ひきだしに沈めし鍵を探しゐて鍵のみを探しゐるにもあらず
ヒキダシニ シズメシカギヲ サガシヰテ カギノミヲサガシ ヰルニモアラズ

『大宮文芸』(大宮市教育委員会 1991.11) 19号 p.10


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婉曲に言ひたりしかば伝はらず伝はらざりとことに安らふ
エンキョクニ イヒタリシカバ ツタハラズ ツタハラザリト コトニヤスラフ

『大宮文芸』(大宮市教育委員会 1991.11) 19号 p.10


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見しことの無しと言ひたるわれのため十指を寄せて百合の木の花
ミシコトノ ナシトイヒタル ワレノタメ ジッシヲヨセテ ユリノキノハナ

『大宮文芸』(大宮市教育委員会 1991.11) 19号 p.10