無題


10010
空の果て空につゞきてよるべなき蜻蛉ぞひとつ流れたゞよふ
ソラノハテ ソラニツヅキテ ヨルベナキ アキツゾヒトツ ナガレタダヨフ

『オレンヂ』(香燈社 1946.11) 第1巻1号(通巻1号) p.30


10011
眼交ひの事象を超えて星ひとつ呼ぶさへむなし遠きこゝろは
マナカヒノ ジショウヲコエテ ホシヒトツ ヨブサヘムナシ トオキココロハ

『オレンヂ』(香燈社 1946.11) 第1巻1号(通巻1号) p.31


10012
灯ともれば花にも淡き靜脈の透けてはかなく見えそめにつゝ
ヒトモレバ ハナニモアワキ ジョウミャクノ スケテハカナク ミエソメニツツ

『オレンヂ』(香燈社 1946.11) 第1巻1号(通巻1号) p.31


10013
殘されし獨りの母のみ部屋ゆゑわが活くる花よ明るく咲けよ
ノコサレシ ヒトリノハハノ ミヘヤユヱ ワガイクルハナヨ アカルクサケヨ

『オレンヂ』(香燈社 1947.1) 2号 p.27


10014
雨の日の窓に羽叩きしげくゐる黄の蝶よすでに吾は疲れぬ
アメノヒノ マドニハバタキ シゲクヰル キノチョウヨスデニ ワレハツカレヌ

『オレンヂ』(香燈社 1947.1) 2号 p.27


10015
うす紅き花咲ける藻の流れゐていつ根ざすとふそぞろ心よ
ウスアカキ ハナサケルモノ ナガレヰテ イツネザストフ ソゾロココロヨ

『オレンヂ』(香燈社 1947.1) 2号 p.27