無題


10069
暇なく生くるといふも無爲に近し萬作の花は咲く日となりぬ
イトマナク イクルトイフモ ムイニチカシ マンサクノハナハ サクヒトナリヌ

『歌と随筆』(蒼明社 1947.4) 第2巻4号 p.7


10070
夕空を微雲ひそかに移るらしわが文机のかげるけはひよ
ユウゾラヲ ビウンヒソカニ ウツルラシ ワガフヅクエノ カゲルケハヒヨ

『歌と随筆』(蒼明社 1947.4) 第2巻4号 p.7


10071
まとまらぬ歌ども幾つ書きながし何はかなむや春の灯のもと
マトマラヌ ウタドモイクツ カキナガシ ナニハカナムヤ ハルノヒノモト

『歌と随筆』(蒼明社 1947.4) 第2巻4号 p.7


10072
哀歓に照り陰りてはをみな子の歌を書きつゝかくて何時まで
アイカンニ テリカゲリテハ ヲミナゴノ ウタヲカキツツ カクテイツマデ

『歌と随筆』(蒼明社 1947.4) 第2巻4号 p.7


10073
春の灯を一つともして息づけばをんな一人やものがたりめく
ハルノヒヲ ヒトツトモシテ イキヅケバ ヲンナヒトリヤ モノガタリメク

『歌と随筆』(蒼明社 1947.4) 第2巻4号 p.7


10074
夜の相はやさしきものぞ道の果の小森はまろく靜もりてゐる
ヨノソウハ ヤサシキモノゾ ミチノハノ コモリハマロク シズモリテヰル

『歌と随筆』(蒼明社 1947.4) 第2巻4号 p.7


10075
温室咲きの葉の花光る花店や春戀ふおもひにときめき入りつ
ムロサキノ ハノハナヒカル ハナミセヤ ハルコフオモヒニ トキメキイリツ

『歌と随筆』(蒼明社 1947.4) 第2巻4号 p.7


10076
きさらぎの陰翳柔らかき窓のへに菜の花活けて安らはむとす
キサラギノ カゲヤワラカキ マドノヘニ ナノハナイケテ ヤスラハムトス

『歌と随筆』(蒼明社 1947.4) 第2巻4号 p.7


10077
春を待つこゝろかなしもうたゝねの夢もほのぼの花吹雪して
ハルヲマツ ココロカナシモ ウタタネノ ユメモホノボノ ハナフブキシテ

『歌と随筆』(蒼明社 1947.4) 第2巻4号 p.7