あけくれ


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勧告を潔く受けて辞めしとふ友の語気のふと淋しきはなぜ
カンコクヲ イサギヨクウケテ ヤメシトフ トモノゴキノフト サビシキハナゼ

『埼玉文学』( 1950.8) 第2巻6号 p.62


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夕刊を買ふ列よぎり駅に入る今日もつひに彼に語り得ざりし
ユウカンヲ カフレツヨギリ エキニイル キョウモツヒニカレニ カタリエザリシ

『埼玉文学』( 1950.8) 第2巻6号 p.62


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粗食して月末をつなぐ家計ゆえ「ゴンクールの日記」買ひかねて來つ
ソショクシテ ゲツマツヲツナグ カケイユエ ゴンクールノニッキ カヒカネテキツ

『埼玉文学』( 1950.8) 第2巻6号 p.63


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独身論ふりかざしゐし友もいつかみどり兒の歌を載せゐてやさし
ドクシンロン フリカザシヰシ トモモイツカ ミドリゴノウタヲ ノセヰテヤサシ

『埼玉文学』( 1950.8) 第2巻6号 p.63


10164
燒きてしまひき「マルテの手記」を漸くに買ひ來て今宵先づ夫が読む
ヤキテシマヒキ マルテノシュキヲ ヨウヤクニ カヒキテコヨイ マヅツマガヨム

『埼玉文学』( 1950.8) 第2巻6号 p.63


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本買へば負債となりて殘りゆく当るあてなきくじも買ひつつ
ホンカヘバ フサイトナリテ ノコリユク アタルアテナキ クジモカヒツツ

『埼玉文学』( 1950.8) 第2巻6号 p.63


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たんねんに背広の襟をつくろひ終へて立ちたる夜半を少しめまひす
タンネンニ セビロノエリヲ ツクロヒオヘテ タチタルヨワヲ スコシメマヒス

『埼玉文学』( 1950.8) 第2巻6号 p.63


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愚痴めきて來し話題そらし脚本募集の記事ある夕刊を君に示しつ
グチメキテ コシワダイソラシ キャクホンボシュウノ キジアルユウカンヲ キミニシメシツ

『埼玉文学』( 1950.8) 第2巻6号 p.63


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食べてねるだけの人生も肯定すと書きあぐみ君は言ひて寝に立つ
タベテネル ダケノジンセイモ コウテイス カキアグミキミハ イヒテネニタツ

『埼玉文学』( 1950.8) 第2巻6号 p.63


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無名にて描き続け來し友も遂に個展開くと今朝來したより
ムメイニテ カキツヅケコシ トモモツイニ コテンヒラクト ケサコシタヨリ

『埼玉文学』( 1950.8) 第2巻6号 p.63


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今日はひどく使ひすぎたる家計簿を記し終へて立つ既に暗き厨に
キョウハヒドク ツカヒスギタル カケイボヲ キシオヘテタツ スデニクラキクリヤニ

『埼玉文学』( 1950.8) 第2巻6号 p.63


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菩提寺の長男が縊死せる噂憶測まじへて人ら語らふ
ボダイジノ チョウナンガイシ セルウワサ オクソクマジヘテ ヒトラカタラフ

『埼玉文学』( 1950.8) 第2巻6号 p.63


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涙ぐみてしまひし吾に別れぎはとりなす言葉君はかけにき
ナミダグミテ シマヒシワレニ ワカレギハ トリナスコトバ キミハカケニキ

『埼玉文学』( 1950.8) 第2巻6号 p.63


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脱党せし人と知るゆえ彼來れば筆耕をおきてわれも寄り聞く
ダットウセシ ヒトトシルユエ カレクレバ ヒッコウヲオキテ ワレモヨリキク

『埼玉文学』( 1950.8) 第2巻6号 p.63