目次
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全短歌(歌集等)
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蔗境3
生活抄
空の果て
倚りてのみ
機械的な
眼交ひの
そこはかと
従の立場に
遠山の
浜なすの
雨の日の
灯ともれば
女ごゝろの
妻のわれに
10174
空の果て空につゞきてよるべなき蜻蛉ぞひとつ流れたゞよふ
ソラノハテ ソラニツヅキテ ヨルベナキ アキツゾヒトツ ナガレタダヨフ
『蔗境3』( 1949.9) p.
10175
倚りてのみありへし女の慣ひにて朝ごゝろさへ易く乱さるる
ヨリテノミ アリヘシオンナノ ナラヒニテ アサゴコロサヘ ヤスクミダサルル
『蔗境3』( 1949.9) p.
10176
機械的な手仕事せめてする倦怠は今朝の屈辱にかゝはる如し
キカイテキナ テシゴトセメテ スルケンタイハ ケサノクツジョクニ カカハルゴトシ
『蔗境3』( 1949.9) p.
10177
眼交ひの事象を超えて星一つ呼ぶさへむなし遠きこゝろは
マナカヒノ ジショウヲコエテ ホシヒトツ ヨブサヘムナシ トオキココロハ
『蔗境3』( 1949.9) p.
10178
そこはかと心のまはりかたづけて静かなる日や合歓の花散る
ソコハカト ココロノマハリ カタヅケテ シズカナルヒヤ ネムノハナチル
『蔗境3』( 1949.9) p.
10179
従の立場に何時しか吾を慣れしめて座せば静けき妻の位置なる
ジュノタチバニ イツシカワレヲ ナレシメテ ザセバシズケキ ツマノイチナル
『蔗境3』( 1949.9) p.
10180
遠山の果てを見つめて何思ふひとの言葉とてはかなきものを
トオヤマノ ハテヲミツメテ ナニオモフ ヒトノコトバトテ ハカナキモノヲ
『蔗境3』( 1949.9) p.
10181
浜なすの花も吹かるゝ潮風にゆれやすかるはこゝろなりけり
ハマナスノ ハナモフカルル シオカゼニ ユレヤスカルハ ココロナリケリ
『蔗境3』( 1949.9) p.
10182
雨の日の窓に羽叩きしげくゐる黄の蝶よすでに吾は疲れぬ
アメノヒノ マドニハバタキ シゲクヰル キノチョウヨスデニ ワレハツカレヌ
『蔗境3』( 1949.9) p.
10183
灯ともれば花にも淡き静脈の透けてはかなき見えそめにつゝ
ヒトモレバ ハナニモアワキ ジョウミャクノ スケテハカナキ ミエソメニツツ
『蔗境3』( 1949.9) p.
10184
女ごゝろの卑しさと思ふ自意識も湧きしまゝつい決断とならず
オンナゴコロノ イヤシサトオモフ ジイシキモ ワキシママツイ ケツダントナラズ
『蔗境3』( 1949.9) p.
10185
妻のわれに干與しがたき形而上の生活が君にあるを怖るゝ
ツマノワレニ カンヨシガタキ ケイジジョウノ セイカツガキミニ アルヲオソルル
『蔗境3』( 1949.9) p.