世相


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涙ためて語るこの友も孤獨にて戰ひの後を苦しめるらし
ナミダタメテ カタルコノトモモ コドクニテ タタカヒノアトヲ クルシメルラシ

『朱扇』( 1950.6) 第2巻6号 p.4


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泣き易き人妻となりしわれに反し黨員の友はどこか圖太し
ナキヤスキ ヒトヅマトナリシ ワレニハンシ トウインノトモハ ドコカズブトシ

『朱扇』( 1950.6) 第2巻6号 p.4


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獨り身も三十すぎし友がふと呪詛ともひびく言葉を洩らす
ヒトリミモ サンジュウスギシ トモガフト ジュソトモヒビク コトバヲモラス

『朱扇』( 1950.6) 第2巻6号 p.4


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モスコーを樂園の如く言ふ君の耀ける眼をわれは見しのみ
モスコーヲ ラクエンノゴトク イフキミノ カガヤケルメヲ ワレハミシノミ

『朱扇』( 1950.6) 第2巻6号 p.4


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夜の間も人生は流れるものをとて讀書に更かす夫に吾も縫ふ
ヨルノマモ ジンセイハナガレル モノヲトテ ドクショニフカス ツマニワレモヌフ

『朱扇』( 1950.6) 第2巻6号 p.4


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わがために金策もしつつ芥川賞を唯一の夢と君は書きつぐ
ワガタメニ キンサクモシツツ アクタガワショウヲ ユイツノユメト キミハカキツグ

『朱扇』( 1950.6) 第2巻6号 p.4


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家庭菜園も作らず讀書する二人を怠惰と人は噂するらし
カテイサイエンモ ツクラズドクショ スルフタリヲ タイダトヒトハ ウワサスルラシ

『朱扇』( 1950.6) 第2巻6号 p.4


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その頃のロマンスや如何と人問へど寧ろ血みどろの戰なりき
ソノコロノ ロマンスヤイカト ヒトトヘド ムシロチミドロノ イクサナリキ

『朱扇』( 1950.6) 第2巻6号 p.4


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組合運動が取り持つ花と噂され短き逢ひも妨げられき
クミアイウンドウガ トリモツハナト ウワササレ ミジカキアヒモ サマタゲラレキ

『朱扇』( 1950.6) 第2巻6号 p.4


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しみじみと星仰ぐこともなき二人在る夜は諍ふ納税のことに
シミジミト ホシアオグコトモ ナキフタリ アルヨハアラソフ ノウゼイノコトニ

『朱扇』( 1950.6) 第2巻6号 p.4