奈良回顧


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黄昏の湖を愛すと彼は告げき秘かに戀はれてゐしにあらずや
タソガレノ ウミヲアイスト カレハツゲキ ヒソカニコハレテ ヰシニアラズヤ

『朱扇』( 1950.7) 第2巻7号 p.3


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水底の藻屑とふ語にもあこがれき死は美しと思ひゐし日々
ミナソコノ モクズトフゴニモ アコガレキ シハウツクシト オモヒヰシヒビ

『朱扇』( 1950.7) 第2巻7号 p.3


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鹿の鳴く秋は寂しく遺書めける手記を頻りに書きてゐたりき
シカノナク アキハサビシク イショメケル シュキヲシキリニ カキテヰタリキ

『朱扇』( 1950.7) 第2巻7号 p.3


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佛像は信仰よりも美の對象と言ひし若き畫家を吾は憎みき
ブツゾウハ シンコウヨリモ ビノタイショウト イヒシワカキガカヲ ワレハニクミキ

『朱扇』( 1950.7) 第2巻7号 p.3


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志賀直哉の邸のあたり芒深く時折ピアノの音も洩れてゐつ
シガナオヤノ ヤシキノアタリ ススキフカク トキオリピアノノ オトモモレテヰツ

『朱扇』( 1950.7) 第2巻7号 p.3