旅情


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諦めて別るるすべも得られむとひとり來し旅の空に虹見つ
アキラメテ ワカルルスベモ エラレムト ヒトリコシタビノ ソラニニジミツ

『朱扇』( 1950.9) 第2巻9号 p.4


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ひぐらしの鳴き出でし夕べ風凪ぎて君に呼ばるる錯覺に落つ
ヒグラシノ ナキイデシユウベ カゼナギテ キミニヨバルル サッカクニオツ

『朱扇』( 1950.9) 第2巻9号 p.4


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池の面に白鳥下りて浮ぶ日よ別れむと決めし安らぎに居り
イケノモニ ハクチョウオリテ ウカブヒヨ ワカレムトキメシ ヤスラギニオリ

『朱扇』( 1950.9) 第2巻9号 p.4


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言ひ譯のみする生活に疲れゆく嫁とふ位置にわが慣れがたし
イヒワケノミ スルセイカツニ ツカレユク ヨメトフイチニ ワガナレガタシ

『朱扇』( 1950.9) 第2巻9号 p.4


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堪へゆくが女の徳と姑は言ふ歸らぬ夫を待ちゐる夜半に
タヘユクガ オンナノトクト シュウトメハイフ カエラヌツマヲ マチヰルヨワニ

『朱扇』( 1950.9) 第2巻9号 p.4


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或時は無視さるる嫁の立場なりつきつめて思へば涙湧くのみ
アルトキハ ムシサルルヨメノ タチバナリ ツキツメテオモヘバ ナミダワクノミ

『朱扇』( 1950.9) 第2巻9号 p.4


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現實は温室ならずと言捨てて出で行きし夫に一日かかづらふ
ゲンジツハ オンシツナラズト イイステテ イデユキシツマニ イチニチカカズラフ

『朱扇』( 1950.9) 第2巻9号 p.4


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四時になれば子を持つ友は歸りゆく暗き話題のみ吾に残して
ヨジニナレバ コヲモツトモハ カエリユク クラキワダイノミ ワレニノコシテ

『朱扇』( 1950.9) 第2巻9号 p.4


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妻のわれにかかはり難き苦哀が君を支配するらし一日黙して
ツマノワレニ カカハリガタキ クアイガキミヲ シハイスルラシ イチニチモクシテ

『朱扇』( 1950.9) 第2巻9号 p.4


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樹木さへ生きてゐるにと涙ぐみ病み細りし手のべて君言ふ
ジュモクサヘ イキテヰルニト ナミダグミ ヤミホソリシテ ノベテキミイフ

『朱扇』( 1950.9) 第2巻9号 p.4


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雪深く積もる夜なりきゆくりなく君の服毒の知らせ受けしは
ユキフカク ツモルヨナリキ ユクリナク キミノフクドクノ シラセウケシハ

『朱扇』( 1950.9) 第2巻9号 p.4