10273
ピアノ彈きて一生を清く送らむと少女のわれを占めてゐし夢
ピアノヒキテ ヒトヨヲキヨク オクラムト ショウジョノワレヲ シメテヰシユメ

『朱扇』(朱扇社 1951.4) 第3巻4号 p.3


10274
ピアニストたらむとしたる日も遠く今荒れし手を見つつ歎かふ
ピアニスト タラムトシタル ヒモトオク イマアレシテヲ ミツツナゲカフ

『朱扇』(朱扇社 1951.4) 第3巻4号 p.3


10275
ショパンのワルツ彈き終へて拍手浴びし日よわれに今はなき笑顔もせしや
ショパンノワルツ ヒキオヘテハクシュ アビシヒヨ ワレニイマハナキ エガオモセシヤ

『朱扇』(朱扇社 1951.4) 第3巻4号 p.3


10276
そらんじてゐし花言葉つぎつぎに置き忘れ來し月日と思ふ
ソランジテ ヰシハナコトバ ツギツギニ オキワスレキシ ツキヒトオモフ

『朱扇』(朱扇社 1951.4) 第3巻4号 p.3


10277
戀さへも虚しとありし遺書の言葉友失ひて幾年つねに思ひき
コイサヘモ ムナシトアリシ イショノコトバ トモウシナヒテイクトシ ツネニオモヒキ

『朱扇』(朱扇社 1951.4) 第3巻4号 p.3


10278
毒をのみて逝きし親友の占めし位置隙まとなりて今も殘れる
ドクヲノミテ ユキシシンユウノ シメシイチ スキマトナリテ イマモノコレル

『朱扇』(朱扇社 1951.4) 第3巻4号 p.3


10279
訪へば風邪の咳長く癒えざるをみとめてくどく気遣ふ母よ
オトナヘバ カゼノセキナガク イエザルヲ ミトメテクドクク キヅカフハハヨ

『朱扇』(朱扇社 1951.4) 第3巻4号 p.


10280
われの重荷となるを怖るる母と知る藥草も摘みためて居給ふ
ワレノオモニト ナルヲオソルル ハハトシル ヤクソウモツミ タメテイタマフ

『朱扇』(朱扇社 1951.4) 第3巻4号 p.3


10281
貧しければ母も寂しく養老院のことなど密かに知り給ふらし
マズシケレバ ハハモサビシク ヨウロウインノ コトナドヒソカニ シリタマフラシ

『朱扇』(朱扇社 1951.4) 第3巻4号 p.3


10282
われにはなき彈力も持つか働きて學資ためむと言ひし妹
ワレニハナキ ダンリョクモモツカ ハタラキテ ガクシタメムト イヒシイモウト

『朱扇』(朱扇社 1951.4) 第3巻4号 p.3


10283
就職の決まれることを告げに来し妹に毛糸持たせつつ巻く
シュウショクノ キマレルコトヲ ツゲニコシ イモウトニケイト モタセツツマク

『朱扇』(朱扇社 1951.4) 第3巻4号 p.3


10284
数年ぶりに買ひし毛糸よ夜更かして胸の花模様編み進めゆく
スウネンブリニ カヒシケイトヨ ヨフカシテ ムネノハナモヨウ アミススメユク

『朱扇』(朱扇社 1951.4) 第3巻4号 p.3