麥若葉


10297
餅草も摘みて待つとふ母の手紙給料日すぎて歸らむと思ふ
モチグサモ ツミテマツトフ ハハノテガミ キュウリョウビスギテ カエラムトオモフ

『朱扇』(朱扇社 1951.6) 第3巻6号 p.3


10298
雨季來ればたちまち水漬く河原さへ人は耕し種子蒔くらしも
ウキクレバ タチマチミズク カワラサヘ ヒトハタガヤシ シュシマクラシモ

『朱扇』(朱扇社 1951.6) 第3巻6号 p.3


10299
屑毛糸集めて何を編むならむ耳遠き母の寂しげにして
クズケイト アツメテナニヲ アムナラム ミミトオキハハノ サビシゲニシテ

『朱扇』(朱扇社 1951.6) 第3巻6号 p.3


10300
無名作家の儘終るとも長く生きよと願ふを君も知り給ふべし
ムメイサッカノ ママオワルトモ ナガクイキヨト ネガフヲキミモ シリタマフベシ

『朱扇』(朱扇社 1951.6) 第3巻6号 p.3


10301
原稿が賣れなば買はむと言ひ給ふ姫鏡台の前を離れつつ
ゲンコウガ ウレナバカハムト イヒタマフ ヒメキョウダイノ マエヲハナレツツ

『朱扇』(朱扇社 1951.6) 第3巻6号 p.3


10302
われの職追はむ企みも知りたれど信じてゐたし人の善意を
ワレノショク オハムタクラミモ シリタレド シンジテヰタシ ヒトノゼンイヲ

『朱扇』(朱扇社 1951.6) 第3巻6号 p.3


10303
未亡人の護身術かわれを陥れてそしらぬ風に笑みかくるなり
ミボウジンノ ゴシンジュツカワレヲ オトシイレテ ソシラヌフウニ エミカクルナリ

『朱扇』(朱扇社 1951.6) 第3巻6号 p.3


10304
春雷のひとしきりせし夕まぐれ辭表書かむと決めて坐りぬ
シュンライノ ヒトシキリセシ ユウマグレ ジヒョウカカムト キメテスワリヌ

『朱扇』(朱扇社 1951.6) 第3巻6号 p.3


10305
策動せし人らよりも職を追はれゆく我に幸福はあると思へり
サクドウセシ ヒトラヨリモショクヲ オハレユク ワレニコウフクハ アルトオモヘリ

『朱扇』(朱扇社 1951.6) 第3巻6号 p.3


10306
待つ手紙今日こそは來むかがよひて麥の若葉を吹く風のあり
マツテガミ キョウコソハコム カガヨヒテ ムギノワカバヲ フクカゼノアリ

『朱扇』(朱扇社 1951.6) 第3巻6号 p.3