目次
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全短歌(歌集等)
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朱扇
狭山紀行
偶然に
ひつそりと
愛されて
今一たび
時へなば
姿勢崩さず
振返らず
なりゆきに
下草の
燃え盡きし
生くる事が
眉あげて
隣の主婦に
10356
偶然にめぐり逢ひたるバスのなか心ゆらぎのすべなかりけり
グウゼンニ メグリアヒタル バスノナカ ココロユラギノ スベナカリケリ
『朱扇』(朱扇社 1952.3) 第4巻3号 p.2
10357
ひつそりと殘雪ふみてもだしゆく傷つきやすき君と知るゆゑ
ヒツソリト ザンセツフミテ モダシユク キズツキヤスキ キミトシルユヱ
『朱扇』(朱扇社 1952.3) 第4巻3号 p.2
10358
愛されてゐると知りたる寂しさよ別れ來て一人バスにゆらるる
アイサレテ ヰルトシリタル サビシサヨ ワカレキテヒトリ バスニユラルル
『朱扇』(朱扇社 1952.3) 第4巻3号 p.2
10359
今一たび夢を見むとも願はねど追ひつめて寂し遠き日の思慕
イマヒトタビ ユメヲミムトモ ネガハネド オヒツメテサビシ トオキヒノシボ
『朱扇』(朱扇社 1952.3) 第4巻3号 p.2
10360
時へなば忘れも得べし思ひ出の中にのみ澄むおもかげとして
トキヘナバ ワスレモウベシ オモヒデノ ナカニノミスム オモカゲトシテ
『朱扇』(朱扇社 1952.3) 第4巻3号 p.2
10361
姿勢崩さず生きたしと思ひ涙出づ風募る夜半を一人覺めゐて
シセイクズサズ イキタシトオモヒ ナミダイヅ カゼツノルヨワヲ ヒトリサメヰテ
『朱扇』(朱扇社 1952.3) 第4巻3号 p.2
10362
振返らずゆくてのみを見よと諭されき寂しき時は思ふかの人
フリカエラズ ユクテノミヲミヨト サトサレキ サビシキトキハ オモフカノヒト
『朱扇』(朱扇社 1952.3) 第4巻3号 p.2
10363
なりゆきにまかす外なきあけくれよつきとめがたし人の心は
ナリユキニ マカスホカナキ アケクレヨ ツキトメガタシ ヒトノココロハ
『朱扇』(朱扇社 1952.3) 第4巻3号 p.2
10364
下草の靑みそめたる野を行きてむなしく何にすがらむとする
シタクサノ アオミソメタル ノヲユキテ ムナシクナニニ スガラムトスル
『朱扇』(朱扇社 1952.3) 第4巻3号 p.2
10365
燃え盡きしいのちとも思ふ夭死せし友のノートの歌寫しつつ
モエツキシ イノチトモオモフ ヨウシセシ トモノノートノ ウタウツシツツ
『朱扇』(朱扇社 1952.3) 第4巻3号 p.2
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生くる事が負檐になりぬと記しあり死の数日前の友が日記ぞ
イクルコトガ フタンニナリヌト シルシアリ シノスウジツマエノ トモガニッキゾ
『朱扇』(朱扇社 1952.3) 第4巻3号 p.2
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眉あげて何に競ふとする我ぞ寄り來れば犬もいとしかりけり
マユアゲテ ナニニキソフト スルワレゾ ヨリクレバイヌモ イトシカリケリ
『朱扇』(朱扇社 1952.3) 第4巻3号 p.2
10368
隣の主婦に貸しし若干の錢の事を氣にかけいます母も貧しく
トナリノシュフニ カシシソコバクノ ゼニノコトヲ キニカケイマス ハハモマズシク
『朱扇』(朱扇社 1952.3) 第4巻3号 p.2