みぞれの街


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思ひ過ごしは止めよと言ひし君が言葉次第に我の鎭りてゆく
オモヒスゴシハ ヤメヨトイヒシ キミガコトバ シダイニワレノ シズマリテユク

『朱扇』(朱扇社 1952.4) 第4巻4号 p.2


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なにげなく驛の前より別れ來て暗き過去もつ友と思へり
ナニゲナク エキノマエヨリ ワカレキテ クラキカコモツ トモトオモヘリ

『朱扇』(朱扇社 1952.4) 第4巻4号 p.2


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語尾濁して別れ來し身を顧みる無思想と思はれむ事の寂しく
ゴビニゴシテ ワカレコシミヲ カエリミル ムシソウトオモハレム コトノサビシク

『朱扇』(朱扇社 1952.4) 第4巻4号 p.2


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獨身を通すと言ひ張り死期迫る父を歎かせしことも忘らえぬ
ドクシンヲ トオストイヒハリ シキセマル チチヲナゲカセシ コトモワスラエヌ

『朱扇』(朱扇社 1952.4) 第4巻4号 p.2


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遺産爭ひを避けて故郷も捨てしとふ父亡き後に知りし眞實よ
イサンアラソイヲ サケテコキョウモ ステシトフ チチナキアトニ シリシシンジツヨ

『朱扇』(朱扇社 1952.4) 第4巻4号 p.2


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壓世的になりゐる我と知りながら苦しまぬ君か今宵もおそし
エンセイテキニ ナリヰルワレト シリナガラ クルシマヌキミカ コヨイモオソシ

『朱扇』(朱扇社 1952.4) 第4巻4号 p.2


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逆らふこともなくて平穏にたつ日日に諦め易くなる寂しむ
サカラフコトモ ナクテヘイオンニ タツヒビニ アキラメヤスク ナルサビシム

『朱扇』(朱扇社 1952.4) 第4巻4号 p.2


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それてゆく人のこころに焦だちてみにくかりしと今は思ふも
ソレテユク ヒトノココロニ イラダチテ ミニクカリシト イマハオモフモ

『朱扇』(朱扇社 1952.4) 第4巻4号 p.2