職場


10377
保身の為のポーズも互に見せ合ひてここの職場に安き日はなし
ホシンノタメノ ポーズモカタミニ ミセアヒテ ココノショクバニ ヤスキヒハナシ

『朱扇』(朱扇社 1952.5) 第4巻5号 p.2


10378
煉炭をかこみて語る昼休み誰もよごれし指先寄せて
レンタンヲ カコミテカタル ヒルヤスミ タレモヨゴレシ ユビサキヨセテ

『朱扇』(朱扇社 1952.5) 第4巻5号 p.2


10379
傾く政治を歎く事務所のひる休み一人は立ちて謄写を初む
カタムクセイジヲ ナゲクジムショノ ヒルヤスミ ヒトリハタチテ トウシャヲハジム

『朱扇』(朱扇社 1952.5) 第4巻5号 p.2


10380
無表情に声のみ立てて笑ふ時胸しめつける寂しさは湧く
ムヒョウジョウニ コエノミタテテ ワラフトキ ムネシメツケル サビシサハワク

『朱扇』(朱扇社 1952.5) 第4巻5号 p.2


10381
真実は必ずとほると主張する妹の若さを時に危ぶむ
シンジツハ カナラズトホルト シュチョウスル イモウトノワカサヲ トキニアヤブム

『朱扇』(朱扇社 1952.5) 第4巻5号 p.2


10382
人は皆寂しきものと知らむとす狭量に怒りやすかりし妹も
ヒトハミナ サビシキモノト シラムトス キョウリョウニイカリ ヤスカリシイモウトモ

『朱扇』(朱扇社 1952.5) 第4巻5号 p.2


10383
告白されし愛に悩む事も未だなき汝か言葉短く語りたるのみ
コクハクサレシ アイニナヤムコトモ イマダナキ ナカコトバミジカク カタリタルノミ

『朱扇』(朱扇社 1952.5) 第4巻5号 p.2


10384
読みたき本重ねし儘に日々は過ぐ菜の花瓣も散りそめにつつ
ヨミタキホン カサネシママニ ヒビハスグ ナノカベンモ チリソメニツツ

『朱扇』(朱扇社 1952.5) 第4巻5号 p.2


10385
降りやみて高き梢よりしづれ初む暫らくの間を一人ありたき
フリヤミテ タカキコズエヨリ シヅレソム シバラクノマヲ ヒトリアリタキ

『朱扇』(朱扇社 1952.5) 第4巻5号 p.2


10386
悲劇のヒロインに己を疑して来し事も寂しく一人夜を更かし居り
ヒゲキノヒロインニ オノレヲギシテ コシコトモ サビシクヒトリ ヨヲフカシオリ

『朱扇』(朱扇社 1952.5) 第4巻5号 p.3


10387
現実のいとなみはなべて虚しきか松のしづれの夜半まで続く
ゲンジツノ イトナミハナベテ ムナシキカ マツノシヅレノ ヨワマデツヅク

『朱扇』(朱扇社 1952.5) 第4巻5号 p.3