雨季


10405
再びは逢はじと決めし人ゆゑに發車までの長き時をよりそふ
フタタビハ アハジトキメシ ヒトユヱニ ハッシャマデノナガキ トキヲヨリソフ

『朱扇』(朱扇社 1952.7) 第4巻7号 p.3


10406
返信を書かざることをせめてもの良心として日日を呆けをり
ヘンシンヲ カカザルコトヲ セメテモノ リョウシントシテ ヒビヲホウケヲリ

『朱扇』(朱扇社 1952.7) 第4巻7号 p.3


10407
人妻と知りてよりは來ぬかの人の潔癖さにさへ我は惹かるる
ヒトヅマト シリテヨリハ コヌカノヒトノ ケッペキサニサヘ ワレハヒカルル

『朱扇』(朱扇社 1952.7) 第4巻7号 p.3


10408
不意に顯ちし幻影に惑ふ街角よ雨は限りなく鋪道を濡らす
フイニタチシ ゲンエイニマドフ マチカドヨ アメハカギリナク ホドウヲヌラス

『朱扇』(朱扇社 1952.7) 第4巻7号 p.3


10409
つきつめて人を思へば現し世に幻覺といふがあるも知りたり
ツキツメテ ヒトヲオモヘバ ウツシヨニ ゲンカクトイフガ アルモシリタリ

『朱扇』(朱扇社 1952.7) 第4巻7号 p.3


10410
義務的に生きゐると思ふ日がありて洗濯物等ためて懶けをり
ギムテキニ イキヰルトオモフ ヒガアリテ センタクモノトウ タメテナマケヲリ

『朱扇』(朱扇社 1952.7) 第4巻7号 p.3


10411
別るるなら子のなき中にと言ひし友の言葉幾夜も思ひ續くる
ワカルルナラ コノナキウチニト イヒシトモノ コトバイクヨモ オモヒツヅクル

『朱扇』(朱扇社 1952.7) 第4巻7号 p.4


10412
女歌手の手をのべて歌ふブルースに何のはずみか涙こぼれつ
オンナカシュノ テヲノベテウタフ ブルースニ ナンノハズミカ ナミダコボレツ

『朱扇』(朱扇社 1952.7) 第4巻7号 p.4


10413
無表情な月のまろさよ樂堂をぬけ出でてひとり歩む夜空に
ムヒヨウジョウナ ツキノマロサヨ ガクドウヲ ヌケイデテヒトリ アユムヨゾラニ

『朱扇』(朱扇社 1952.7) 第4巻7号 p.4


10414
徒勞に終らむ忍耐にも今は從はむかかる生き方を常疎みつつ
トロウニオワラム ニンタイニモイマハ シタガハム カカルイキカタヲ ツネウトミツツ

『朱扇』(朱扇社 1952.7) 第4巻7号 p.4