目次
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全短歌(歌集等)
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朱扇
百日紅咲く
貧しき中に
女なりとも
混迷の
甘かりし
謄寫刷りを
酒の席に
譲歩して
砂防法などの
世の中を
苦學して
體力を
ひたむきに
家族らに
玉子ゆでる
百日紅の
10432
貧しき中にある平安も肯はむブラウスをさらすカルキが匂ふ
マズシキナカニ アルヘイアンモ ウベナハム ブラウスヲサラス カルキガニオフ
『朱扇』(朱扇社 1952.9) 第4巻9号 p.2
10433
女なりとも生活力を養へよと遠き教へ子に書き添へてやる
オンナナリトモ セイカツリョクヲ ヤシナヘヨト トオキオシエゴニ カキソヘテヤル
『朱扇』(朱扇社 1952.9) 第4巻9号 p.2
10434
混迷の世に若き身をさらしつつ如何に堪へゐむわが教へ子ら
コンメイノ ヨニワカキミヲ サラシツツ イカニタヘヰム ワガオシヘゴラ
『朱扇』(朱扇社 1952.9) 第4巻9号 p.2
10435
甘かりしわが人生觀が響きゐずや教へ子たちの處世の上に
アマカリシ ワガジンセイカンガ ヒビキヰズヤ オシヘゴタチノ ショセイノウエニ
『朱扇』(朱扇社 1952.9) 第4巻9号 p.2
10436
謄寫刷りを一日なしつつ我の中に徐々に起りゐる變化思へり
トウシャズリヲ ヒトヒナシツツ ワレノナカニ ジョジョニオコリヰル ヘンカオモヘリ
『朱扇』(朱扇社 1952.9) 第4巻9号 p.2
10437
酒の席に誘ふ葉書が君に來つ痛飲などといふ言葉がありき
サケノセキニ サソフハガキガ キミニキツ ツウインナドトイフ コトバガアリキ
『朱扇』(朱扇社 1952.9) 第4巻9号 p.2
10438
譲歩してオペラを見むと言ひし君かかる愛情の在り方も寂し
ジョウホシテ オペラヲミムト イヒシキミ カカルアイジョウノ アリカタモサビシ
『朱扇』(朱扇社 1952.9) 第4巻9号 p.2
10439
砂防法などの圏外にあり生活に追はるる友がむしろ羨しも
サボウホウナドノ ケンガイニアリ セイカツニ オハルルトモカ ムシロトモシモ
『朱扇』(朱扇社 1952.9) 第4巻9号 p.2
10440
世の中を割切りて生くる立場羨し疾く子を生めと言ひにし友よ
ヨノナカヲ ワリキリテイクル タチバトモシ トクコヲウメト イヒニシトモヨ
『朱扇』(朱扇社 1952.9) 第4巻9号 p.2
10441
苦學して遂に病みつきし汝が愛し哲學概論など枕邊にあり
クガクシテ ツイニヤミツキシ ナガアイシ テツガクガイロンナド マクラベニアリ
『朱扇』(朱扇社 1952.9) 第4巻9号 p.2
10442
體力を知れと叱れば涙ぐむ幼くて父を喪へる汝よ
タイリョクヲ シレトシカレバ ナミダグム オサナクテチチヲ モヘルナンジヨ
『朱扇』(朱扇社 1952.9) 第4巻9号 p.2
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ひたむきにアメリカ留學を夢見ゐし明るさも既に失へる汝よ
ヒタムキニ アメリカリュウガクヲ ユメミヰシ アカルサモスデニ ウシナヘルナヨ
『朱扇』(朱扇社 1952.9) 第4巻9号 p.2
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家族らに互みに病まれ夏も更く注射器を煮つつ一人起き居り
ウカララニ カタミニヤマレ ナツモフク チュウシャキヲニツツ ヒトリオキオリ
『朱扇』(朱扇社 1952.9) 第4巻9号 p.2
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玉子ゆでる鍋が微かに音たてて何時までも妹も眠れぬらしも
タマゴユデル ナベガカスカニ オトタテテ イツマデモイモウトモ ネムレヌラシモ
『朱扇』(朱扇社 1952.9) 第4巻9号 p.2
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百日紅の花も吹かれて散り居らむ暗き夜空をどよもす風よ
サルスベリノ ハナモフカレテ チリオラム クラキヨゾラヲ ドヨモスカゼヨ
『朱扇』(朱扇社 1952.9) 第4巻9号 p.2