百日紅咲く


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貧しき中にある平安も肯はむブラウスをさらすカルキが匂ふ
マズシキナカニ アルヘイアンモ ウベナハム ブラウスヲサラス カルキガニオフ

『朱扇』(朱扇社 1952.9) 第4巻9号 p.2


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女なりとも生活力を養へよと遠き教へ子に書き添へてやる
オンナナリトモ セイカツリョクヲ ヤシナヘヨト トオキオシエゴニ カキソヘテヤル

『朱扇』(朱扇社 1952.9) 第4巻9号 p.2


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混迷の世に若き身をさらしつつ如何に堪へゐむわが教へ子ら
コンメイノ ヨニワカキミヲ サラシツツ イカニタヘヰム ワガオシヘゴラ

『朱扇』(朱扇社 1952.9) 第4巻9号 p.2


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甘かりしわが人生觀が響きゐずや教へ子たちの處世の上に
アマカリシ ワガジンセイカンガ ヒビキヰズヤ オシヘゴタチノ ショセイノウエニ

『朱扇』(朱扇社 1952.9) 第4巻9号 p.2


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謄寫刷りを一日なしつつ我の中に徐々に起りゐる變化思へり
トウシャズリヲ ヒトヒナシツツ ワレノナカニ ジョジョニオコリヰル ヘンカオモヘリ

『朱扇』(朱扇社 1952.9) 第4巻9号 p.2


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酒の席に誘ふ葉書が君に來つ痛飲などといふ言葉がありき
サケノセキニ サソフハガキガ キミニキツ ツウインナドトイフ コトバガアリキ

『朱扇』(朱扇社 1952.9) 第4巻9号 p.2


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譲歩してオペラを見むと言ひし君かかる愛情の在り方も寂し
ジョウホシテ オペラヲミムト イヒシキミ カカルアイジョウノ アリカタモサビシ

『朱扇』(朱扇社 1952.9) 第4巻9号 p.2


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砂防法などの圏外にあり生活に追はるる友がむしろ羨しも
サボウホウナドノ ケンガイニアリ セイカツニ オハルルトモカ ムシロトモシモ

『朱扇』(朱扇社 1952.9) 第4巻9号 p.2


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世の中を割切りて生くる立場羨し疾く子を生めと言ひにし友よ
ヨノナカヲ ワリキリテイクル タチバトモシ トクコヲウメト イヒニシトモヨ

『朱扇』(朱扇社 1952.9) 第4巻9号 p.2


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苦學して遂に病みつきし汝が愛し哲學概論など枕邊にあり
クガクシテ ツイニヤミツキシ ナガアイシ テツガクガイロンナド マクラベニアリ

『朱扇』(朱扇社 1952.9) 第4巻9号 p.2


10442
體力を知れと叱れば涙ぐむ幼くて父を喪へる汝よ
タイリョクヲ シレトシカレバ ナミダグム オサナクテチチヲ モヘルナンジヨ

『朱扇』(朱扇社 1952.9) 第4巻9号 p.2


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ひたむきにアメリカ留學を夢見ゐし明るさも既に失へる汝よ
ヒタムキニ アメリカリュウガクヲ ユメミヰシ アカルサモスデニ ウシナヘルナヨ

『朱扇』(朱扇社 1952.9) 第4巻9号 p.2


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家族らに互みに病まれ夏も更く注射器を煮つつ一人起き居り
ウカララニ カタミニヤマレ ナツモフク チュウシャキヲニツツ ヒトリオキオリ

『朱扇』(朱扇社 1952.9) 第4巻9号 p.2


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玉子ゆでる鍋が微かに音たてて何時までも妹も眠れぬらしも
タマゴユデル ナベガカスカニ オトタテテ イツマデモイモウトモ ネムレヌラシモ

『朱扇』(朱扇社 1952.9) 第4巻9号 p.2


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百日紅の花も吹かれて散り居らむ暗き夜空をどよもす風よ
サルスベリノ ハナモフカレテ チリオラム クラキヨゾラヲ ドヨモスカゼヨ

『朱扇』(朱扇社 1952.9) 第4巻9号 p.2