目次
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全短歌(歌集等)
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朱扇
暗き思ひ出
思ひ起す
かの草山に
みどり兒を
山の彼方に
風化して
理想もちて
子のなきを
暗き繪を
癒ゆる望の
風の中に
酒倉の
アララギに
10452
思ひ起す事も稀になりてゐしものを亡き吾兒が今朝の夢に顯ちたり
オモヒオコス コトモマレニナリテ ヰシモノヲ ナキアコガケサノ ユメニタチタリ
『朱扇』(朱扇社 1952.10) 第4巻10号 p.2
10453
かの草山に殘し來し吾兒が墓を想へば漂泊の身のごとく儚し
カノクサヤマニ ノコシコシアコガ ハカヲオモヘバ サスラヒノミノ ゴトクハカナシ
『朱扇』(朱扇社 1952.10) 第4巻10号 p.2
10454
みどり兒を喪ひし深傷忘るべく故郷を遠く出で來つ君と
ミドリゴヲ モヒシフカデ ワスルベク コキヨウヲトオク イデキツキミト
『朱扇』(朱扇社 1952.10) 第4巻10号 p.2
10455
山の彼方に雲ゆく見れば訪ひ難きわがみどり兒の墓邊想ほゆ
ヤマノカナタニ クモユクミレバ トヒガタキ ワガミドリゴノ ハカベオモホユ
『朱扇』(朱扇社 1952.10) 第4巻10号 p.2
10456
風化して傾きゐずや年を經しかの草かげの吾兒が墓標よ
フウカシテ カタムキヰズヤ トシヲヘシ カノクサカゲノ アコガボヒョウヨ
『朱扇』(朱扇社 1952.10) 第4巻10号 p.3
10457
理想もちて混迷の世を生きむには潔からむ子を持たぬ身よ
リソウモチテ コンメイノヨヲ イキムニハ イサギヨカラム コヲモタヌミヨ
『朱扇』(朱扇社 1952.10) 第4巻10号 p.3
10458
子のなきを蔑まれ時に羨まれ靜かに日々の過ぐるものかも
コノナキヲ サゲスマレトキニ ウラヤマレ シズカニヒビノ スグルモノカモ
『朱扇』(朱扇社 1952.10) 第4巻10号 p.3
10459
暗き繪を見續くるごとき友と思ふ前の夫とも死別したりき
クラキエヲ ミツヅクルゴトキ トモトオモフ マエノツマトモ シベツシタリキ
『朱扇』(朱扇社 1952.10) 第4巻10号 p.3
10460
癒ゆる望のなき人に仕へ窶れたる友と聞きつつ訪ふ由もなし
イユルノゾミノ ナキヒトニツカヘ ヤツレタル トモトキキツツ トフヨシモナシ
『朱扇』(朱扇社 1952.10) 第4巻10号 p.3
10461
風の中にひたすら麥を刈りてゐき落ち目となりし舊家守りて
カゼノナカニ ヒタスラムギヲ カリテヰキ オチメトナリシ キュウカマモリテ
『朱扇』(朱扇社 1952.10) 第4巻10号 p.3
10462
酒倉の棟並ぶ奥の離れ家にめしひの母はひとりいましき
サカグラノ ムネナラブオクノ ハナレヤニ メシヒノハハハ ヒトリイマシキ
『朱扇』(朱扇社 1952.10) 第4巻10号 p.3
10463
アララギに二つのりゐし友が歌誦し終へて書店を出づる密かに
アララギニ フタツノリヰシ トモガウタ ズシオヘテショテンヲ イヅルヒソカニ
『朱扇』(朱扇社 1952.10) 第4巻10号 p.3