病院にて


10465
明日は明日の風が吹くといふ言葉あり涙たりつつ今宵思へり
アスハアスノ カゼガフクトイフ コトバアリ ナミダタリツツ コヨイオモヘリ

『朱扇』(朱扇社 1952.12) 第4巻11号 p.4


10466
手術後の眠りにおちし母の顏生えぎはにうすく汗はにじめり
シュジュツゴノ ネムリニオチシ ハハノカオ ハエギハニウスク アセハニジメリ

『朱扇』(朱扇社 1952.12) 第4巻11号 p.4


10467
自我強く生き來し母よ枕邊に入れ齒を置きて眠り給へり
ジガツヨク イキコシハハヨ マクラベニ イレバヲオキテ ネムリタマヘリ

『朱扇』(朱扇社 1952.12) 第4巻11号 p.4


10468
子らの爲殘し來し財の盡きなむを氣にかけています事もしりたり
コラノタメ ノコシコシザイノ ツキナムヲ キニカケテイマス コトモシリタリ

『朱扇』(朱扇社 1952.12) 第4巻11号 p.4


10469
病室の窓に今朝啼く百舌の聲を聞かすすべもなし耳病む母よ
ビョウシツノ マドニケサナク モズノコエヲ キカススベモナシ ミミヤムハハヨ

『朱扇』(朱扇社 1952.12) 第4巻11号 p.4


10470
冬となる日々長く病院に通ふべき母の爲今宵も脚絆編みつぐ
フユトナル ヒビナガクビョウインニ カヨフベキ ハハノタメコヨイモ キャハンアミツグ

『朱扇』(朱扇社 1952.12) 第4巻11号 p.4


10471
集め毛糸の脚絆なれどもはきて見つつ母の目に光る涙をみたり
アツメケイトノ キャハンナレドモ ハキテミツツ ハハノメニヒカル ナミダヲミタリ

『朱扇』(朱扇社 1952.12) 第4巻11号 p.4


10472
働きつつ貧しき日々よ棄てばちの生き方のふと美しく見ゆ
ハタラキツツ マズシキヒビヨ ステバチノ イキカタノフト ウツクシクミユ

『朱扇』(朱扇社 1952.12) 第4巻11号 p.4


10473
急に廣場に出づるが如きことなきや暗く貧しき日々が續くも
キュウニヒロバニ イヅルガゴトキ コトナキヤ クラクマズシキ ヒビガツヅクモ

『朱扇』(朱扇社 1952.12) 第4巻11号 p.4