冬の日


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母の病状を告ぐる聲なり落着きて聞かむと受話器持直したり
ハハノビョウジョウヲ ツグルコエナリ オチツキテ キカムトジュワキ モチナオシタリ

『朱扇』(朱扇社 1953.4) 第5巻3号 p.7


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道端にくぐもりて亞炭碎きをり日暮れて何を賣らむ老婆ぞ
ミチバタニ クグモリテアタン クダキヲリ ヒグレテナニヲ ウラムロウバゾ

『朱扇』(朱扇社 1953.4) 第5巻3号 p.7


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かがまりて靴の埃を拭きはじむ少女は待ち疲れし表情をして
カガマリテ クツノホコリヲ フキハジム ショウジョハマチツカレシ ヒョウジョウヲシテ

『朱扇』(朱扇社 1953.4) 第5巻3号 p.7


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被害妄想と片附けられて立ちて來つ夫にも我は理解されざる
ヒガイモウソウト カタズケラレテ タチテキツ ツマニモワレハ リカイサレザル

『朱扇』(朱扇社 1953.4) 第5巻3号 p.7


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抗はず無氣力になりてゆく我を進歩とみなす一人か君も
アラソハズ ムキリョクニナリテ ユクワレヲ シンポトミナス ヒトリカキミモ

『朱扇』(朱扇社 1953.4) 第5巻3号 p.7


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踏切りのつかぬままに漸く保ちゐる平安か毛糸編みつつ寂し
フミキリノ ツカヌママニヨウヤク タモチヰル ヘイアンカケイト アミツツサビシ

『朱扇』(朱扇社 1953.4) 第5巻3号 p.7


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わが爲に強ひて歸らむとする事もなき夫か灯を消して眠らむ
ワガタメニ シイテカエラムト スルコトモ ナキツマカヒヲ ケシテネムラム

『朱扇』(朱扇社 1953.4) 第5巻3号 p.7