をりをりの歌


10574
さとられずにすましたき齟齬思ひゐて柿の花がら踏みつつ帰る
サトラレズニ スマシタキソゴ オモヒヰテ カキノハナガラ フミツツカエル

『林鐘』(林鐘短歌會 1957.1) p.1


10575
雨あとの靄はれゆけば対岸に廃墟のごとき街浮び出づ
アメアトノ モヤハレユケバ タイガンニ ハイキョノゴトキ マチウカビイヅ

『林鐘』(林鐘短歌會 1957.1) p.1


10576
徒労と知りつつ待ちし年月よ熱きタオルに襟あし拭ふ
トロウト シリツツマチシ トシツキヨ アツキタオルニ エリアシヌグフ

『林鐘』(林鐘短歌會 1957.1) 第9巻10号 p.1


10577
濡れて届かむわれの手紙と思ひつつまどろめば遠ざかる夜の雨
ヌレテトドカム ワレノテガミト オモヒツツ マドロメバトオザカル ヨルノアメ

『林鐘』(林鐘短歌會 1957.1) 第9巻10号 p.1


10578
古文書を読みつなぎつつほうけゆく雨に散りゐむ百日紅も
コモンジョヲ ヨミツナギツツ ホウケユク アメニチリヰム ヒャクジツコウモ

『林鐘』(林鐘短歌會 1957.1) 第9巻10号 p.1


10579
同じ弧を描き続くるネオン見え思はぬことも言ふかも知れぬ
オナジコヲ エガキツヅクル ネオンミエ オモハヌコトモ イフカモシレヌ

『林鐘』(林鐘短歌會 1957.1) 第9巻10号 p.1


10580
大聲にてわめき散らせしあとのごと何に寂しむ今朝のこころよ
オオゴエニテ ワメキチラセシ アトノゴト ナニニサビシム ケサノココロヨ

『林鐘』(林鐘短歌會 1957.1) 第9巻10号 p.1


10581
秋草を手向けて遠く過ぎ来しが野の石佛も霧に濡れゐむ
アキクサヲ タムケテトオク スギコシガ ノノセキブツモ キリニヌレヰム

『林鐘』(林鐘短歌會 1957.1) 第9巻10号 p.1


10582
「アラスカのやうに淋し」といふ詩句を眠らむとして今宵も思ふ
アラスカノ ヤウニサビシト イフシクヲ ネムラムトシテ コヨイモオモフ

『林鐘』(林鐘短歌會 1957.1) 第9巻10号 p.1


10583
ありありと後れゆく身を寂しめば木菟も夜すがら啼きとほしたり
アリアリト オクレユクミヲ サビシメバ ヅクモヨスガラ ナキトホシタリ

『林鐘』(林鐘短歌會 1957.1) 第9巻10号 p.1