春信


10584
遠景をとざして萌ゆる雑木原夜となれば街の灯かげを透かす
エンケイヲ トザシテモユル ゾウキハラ ヨトナレバマチノ ヒカゲヲスカス

『林鐘』(林鐘短歌會 1958.5) 第10巻5号 p.1


10585
何つなぎおきたきこころ返されぬ詩集のことに觸れず別れつ
ナニツナギ オキタキココロ カエサレヌ シシュウノコトニ フレズワカレツ

『林鐘』(林鐘短歌會 1958.5) 第10巻5号 p.1


10586
闇と闇をつなぎてひらく門ありき寂しみて夜の大橋渡る
ヤミトヤミヲ ツナギテヒラク モンアリキ サビシミテヨノ オオハシワタル

『林鐘』(林鐘短歌會 1958.5) 第10巻5号 p.1


10587
乗り出してもの言ふこともなき日々とゆであげし三葉切り揃へゆく
ノリダシテ モノイフコトモ ナキヒビト ユデアゲシミツバ キリソロヘユク

『林鐘』(林鐘短歌會 1958.5) 第10巻5号 p.1


10588
灯を寄せて春着の袖の丸み縫ふかくひそやかに背離のこころ
ヒヲヨセテ ハルギノソデノ マルミヌフ カクヒソヤカニ ハイリノココロ

『林鐘』(林鐘短歌會 1958.5) 第10巻5号 p.1


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沖をゆく船のあかりに執しゐしこころも間なく引き戻さるる
オキヲユク フネノアカリニ シフシヰシ ココロモマナク ヒキモドサルル

『林鐘』(林鐘短歌會 1958.5) 第10巻5号 p.1


10590
舟唄にめざめむ朝を待つごとく岬の見ゆる椅子に睡りつ
バルカロールニ メザメムアサヲ マツゴトク ミサキノミユル イスニネムリツ

『林鐘』(林鐘短歌會 1958.5) 第10巻5号 p.1