目次
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全短歌(歌集等)
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短歌研究
まなうらの像
虐げらるる
言傳てもちて
殻とぢて
別れ住む
散漫に
わが教へし
跪きて
焦點と
アンカットの
みづからの
氣づかぬ間に
舞曲の
わが夢に
閉ぢこめられ
何事も
悲劇も今は
よるべなく
わが中の
今一つの
おのづからなる
10591
虐げらるる程強くなる女よといふ噂歸り来てひとり炭火をおこす
シイタゲラルルホド ツヨクナルオンナヨト イフウワサ カエリキテヒトリ スミビヲオコス
『短歌研究』(短歌研究社 1955.4) p.88
10592
言傳てもちて來し友の幼な子わが炊ぐ釜の小さきを驚きて言ふ
コトヅテモチテ コシトモノオサナゴ ワガカシグ カマノチイサキヲ オドロキテイフ
『短歌研究』(短歌研究社 1955.4) p.88
10593
殻とぢて竦める如き日のわれを不意に來し母に見せてしまひぬ
カラトヂテ スクメルゴトキ ヒノワレヲ フイニキシハハニ ミセテシマヒヌ
『短歌研究』(短歌研究社 1955.4) p.88
10594
別れ住む間さへ苛まれゐる身よ落葉に埋れてしまひたくなる
ワカレスム マサヘサイナマレ ヰルミヨ オチバニウモレテ シマヒタクナル
『短歌研究』(短歌研究社 1955.4) p.88
10595
散漫になる夜の心まどろめば聖アンネの像がまなうらに來る
サンマンニ ナルヨノココロ マドロメバ セイアンネノゾウガ マナウラニクル
『短歌研究』(短歌研究社 1955.4) p.88
10596
わが教へし舟唄今も忘れずと何故書き來しや母となれる教へ子
ワガオシヘシ バルカロールイマモ ワスレズト ナゼカキコシヤハハト ナレルオシヘゴ
『短歌研究』(短歌研究社 1955.4) p.88
10597
跪きて砂漠に祈るターバンの群の一人たりしが汗ばみてめざむ
ヒザマズキテ サバクニイノル ターバンノ ムレノヒトリタリシガ アセバミテメザム
『短歌研究』(短歌研究社 1955.4) p.88
10598
焦點となすを懼るるわがこころ賜びし詩集の背文字をみつむ
ショウテント ナスヲオソルル ワガココロ タビシシシュウノ セモジヲミツム
『短歌研究』(短歌研究社 1955.4) p.88
10599
アンカットのまま重ねおく詩集一つ徒勞とも思ふわが仕事がふえゆく
アンカットノ ママカサネオク シシュウヒトツ トロウトモオモフワガ シゴトガフエユク
『短歌研究』(短歌研究社 1955.4) p.88
10600
みづからの道狭めつつ生きゆくや亞流と言はれむを何より怖る
ミヅカラノ ミチセバメツツ イキユクヤ アリュウトイハレムヲ ナニヨリオソル
『短歌研究』(短歌研究社 1955.4) p.88
10601
氣づかぬ間に陽氣にものを言ひてしまふもう一人のわれを怖れて思ふ
キヅカヌマニ ヨウキニモノヲ イヒテシマフ モウヒトリノワレヲ オソレテオモフ
『短歌研究』(短歌研究社 1955.4) p.89
10602
舞曲のレコードかけつつ夕餉なす放恣とも思ふかかる孤獨の處理は
シヤコンヌノ レコードカケツツ ユウゲナス ホウシトモオモフカカル コドクノショリハ
『短歌研究』(短歌研究社 1955.4) p.89
10603
わが夢に夜々ひらく廣野を翳のごとよぎるはいまだたれとも知れず
ワガユメニ ヨヨヒラクコウヤヲ カゲノゴト ヨギルハイマダ タレトモシレズ
『短歌研究』(短歌研究社 1955.4) p.89
10604
閉ぢこめられゐて秘かに爪とぐ如き身と疊掃きつつ寂しき日なり
トヂコメラレ ヰテヒソカニツメ トグゴトキ ミトタタミハキツツ サビシキヒナリ
『短歌研究』(短歌研究社 1955.4) p.89
10605
何事も抽象化してしまふわれと思ふ充たされゆくやながき空白も
ナニゴトモ チュウショウカシテシマフ ワレトオモフ ミタサレユクヤ ナガキクウハクモ
『短歌研究』(短歌研究社 1955.4) p.89
10606
悲劇も今はわれの中に消化し去られつと思ひひそめて或る夜はゐたり
ヒゲキモイマハ ワレノナカニショウカシ サラレツト オモヒヒソメテ アルヨハヰタリ
『短歌研究』(短歌研究社 1955.4) p.89
10607
よるべなく旅ゆくこころ灣口にかかりて船は汽笛を鳴らす
ヨルベナク タビユクココロ ワンコウニ カカリテフネハ キテキヲナラス
『短歌研究』(短歌研究社 1955.4) p.89
10608
わが中の循環に終らむ思慕と思ふ遠き山なみ見つつぞ歩む
ワガナカノ ジュンカンニオワラム シボトオモフ トオキヤマナミ ミツツゾアユム
『短歌研究』(短歌研究社 1955.4) p.89
10609
今一つの超克を希ふわがこころ夜の靄の底に海は轟く
イマヒトツノ チョウコクヲネガフ ワガココロ ヨノモヤノソコニ ウミハトドロク
『短歌研究』(短歌研究社 1955.4) p.89
10610
おのづからなる乖離を今は希ふ身に何をいざなふ遠き潮の音
オノヅカラナル カイリヲイマハ ネガフミニ ナニヲイザナフ トオキシホノネ
『短歌研究』(短歌研究社 1955.4) p.89