夕占


10636
夜行バスの窓より見えて星かげと山あひの灯とまたたきかはす
ヤコウバスノ マドヨリミエテ ホシカゲト ヤマアヒノヒト マタタキカハス

『短歌研究』(短歌研究社 1958.1) 第15巻1号 p.132


10637
失ひし版圖を憶ふごとくゐて草なびくとき尾根光る見ゆ
ウシナヒシ ハンズヲオボフ ゴトクヰテ クサナビクトキ オネヒカルミユ

『短歌研究』(短歌研究社 1985.1) 第15巻1号 p.132


10638
遺されし埴輪まもりて一日ゐき砂に足あと沈めつつゆく
ノコサレシ ハニワマモリテ ヒトヒヰキ スナニアシアト シズメツツユク

『短歌研究』(短歌研究社 1958.1) 第15巻1号 p.132


10639
月の夜の鴟尾は照りつつたかむらのけぶかき圍繞よりのがれ得ず
ツキノヨノ シビハテリツツ タカムラノ ケブカキイジョウ ヨリノガレエズ

『短歌研究』(短歌研究社 1958.1) 第15巻1号 p.132


10640
向き替えて來し埴輪ゆゑ月のかげうつろなる目にさすときあらむ
ムキカエテ コシハニワユヱ ツキノカゲ ウツロナルメニ サストキアラム

『短歌研究』(短歌研究社 1958.1) 第15巻1号 p.132


10641
推し量り思ふ自在を寂しめり生きておはせし日より續きて
オシハカリ オモフジザイヲ サビシメリ イキテオハセシ ヒヨリツヅキテ

『短歌研究』(短歌研究社 1958.1) 第15巻1号 p.132


10642
遠き空に花火あがれる夜なりしがつらぬきがたきことも知りゆく
トオキソラニ ハナビアガレル ヨナリシガ ツラヌキガタキ コトモシリユク

『短歌研究』(短歌研究社 1958.1) 第15巻1号 p.132


10643
出口の一つふさぎて本を積める部屋究極の砦のごとき思ひす
デグチノヒトツ フサギテホンヲ ツメルヘヤ ツヒノトリデノ ゴトキオモヒス

『短歌研究』(短歌研究社 1958.1) 第15巻1号 p.132


10644
はぐれゆく心をつなぎとむるごと受話器の奥に鳴るオルゴール
ハグレユク ココロヲツナギ トムルゴト ジュワキノオクニ ナルオルゴール

『短歌研究』(短歌研究社 1958.1) 第15巻1号 p.133


10645
わかちもつ密計もなくて歩みつつ一人は石を湖の面に抛ぐ
ワカチモツ ミッケイモナクテ アユミツツ ヒトリハイシヲ ウミノモニナグ

『短歌研究』(短歌研究社 1958.1) 第15巻1号 p.133


10646
指組める塑像の胸の隈ふかし執して思ふことにもあらず
ユビクメル ソゾウノムネノ クマフカシ シュウシテオモフ コトニモアラズ

『短歌研究』(短歌研究社 1958.1) 第15巻1号 p.133


10647
夕占をこころむるがに仰ぐ空母さへわれの絆となるな
ユウウラヲ ココロムルガニ アオグソラ ハハサヘワレノ キズナトナルナ

『短歌研究』(短歌研究社 1958.1) 第15巻1号 p.133


10648
電光にをりふし深く射られつつぞめく森あり夜のまなかひに
デンコウニ ヲリフシフカク イラレツツ ゾメクモリアリ ヨノマナカヒニ

『短歌研究』(短歌研究社 1958.1) 第15巻1号 p.133


10649
空席の一つをめぐる確執に遠くしてわが書庫のあけくれ
クウセキノ ヒトツヲメグル カクシツニ トオクシテワガ ショコノアケクレ

『短歌研究』(短歌研究社 1958.1) 第15巻1号 p.133


10650
塑像にてしづかに双手あげゐたり雨に八つ手の花のけぶらふ
ソゾウニテ シヅカニモロテ アゲヰタリ アメニヤツデノ ハナノケブラフ

『短歌研究』(短歌研究社 1958.1) 第15巻1号 p.133