目次
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全短歌(歌集等)
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短歌
三叉路
雨のなかに
ハイヤーを
対きあひて
住みがたき
漂鳥の
印章を
タール煮る
ワンピース
冷却器の
改宗の
朱を塗りて
苗床の
わが岸を
三椏は
新しき
地取りして
風折れの
田から田へ
夜の水は
溶闇に
音量を
蛇の卵
伴はれ
新しき
遺されし
墓碑銘を
川底の
おのづから
鷺草の
柱像の
10651
雨のなかに赭く錆びゆく朴の花昨夜の夢さへわれをあざむく
アメノナカニ アカクサビユク ホオノハナ ヨベノユメサヘ ワレヲアザムク
『短歌』(角川書店 1961.7) 第8巻7号 p.34
10652
ハイヤーを洗ふホースがくねりゐて予感するどし朝の駅前
ハイヤーヲ アラフホースガ クネリヰテ ヨカンスルドシ アサノエキマエ
『短歌』(角川書店 1961.7) 第8巻7号 p.34
10653
対きあひてプルニエの皿あけしのみ掠むるやうにバスは発ちゆく
ムキアヒテ プルニエノサラ アケシノミ カスムルヤウニ バスハタチユク
『短歌』(角川書店 1961.7) 第8巻7号 p.34
10654
住みがたき町と思ふに三叉路は風を呼びつつ風鈴売らる
スミガタキ マチトオモフニ サンサロハ カゼヲヨビツツ フウリンウラル
『短歌』(角川書店 1961.7) 第8巻7号 p.34
10655
漂鳥の自在を阻む何あらむ或る日は重く地にゐる鳩ら
ヒョウチョウノ ジザイヲハバム ナニアラム アルヒハオモク チニヰルハトラ
『短歌』(角川書店 1961.7) 第8巻7号 p.35
10656
印章をあつらへに入りて小暗きに癖つよき文字カードに記す
インショウヲ アツラヘニイリテ コクラキニ クセツヨキモジ カードニシルス
『短歌』(角川書店 1961.7) 第8巻7号 p.35
10657
タール煮るかたはら過ぎて襟暑し何時訪ひ来ても騒ける町
タールニル カタハラスギテ エリアツシ イツトヒキテモ ザワツケルマチ
『短歌』(角川書店 1961.7) 第8巻7号 p.35
10658
ワンピース着せ終へて腕を嵌め込みつ店員はマネキンより丈低し
ワンピース キセオヘテウデヲ ハメコミツ テンインハマネキン ヨリタケヒクシ
『短歌』(角川書店 1961.7) 第8巻7号 p.35
10659
冷却器の音する茶房に落ちあひてヒールの泥もいつしか乾く
フリーザーノ オトスルサボウニ オチアヒテ ヒールノドロモ イツシカカワク
『短歌』(角川書店 1961.7) 第8巻7号 p.35
10660
改宗の経緯を告げて来し手紙精しく剖きて見たき字句持つ
カイシュウノ ケイイヲツゲテ コシテガミ クハシクサキテ ミタキジクモツ
『短歌』(角川書店 1961.7) 第8巻7号 p.35
10661
朱を塗りて仕上げしグラフみづからの信じ得ぬ日も人は信ぜむ
シュヲヌリテ シアゲシグラフ ミヅカラノ シンジエヌヒモ ヒトハシンゼム
『短歌』(角川書店 1961.7) 第8巻7号 p.35
10662
苗床のビニールを煽る風の音と聴きすましつつながく醒めゐる
ナエドコノ ビニールヲアオル カゼノオトト キキスマシツツ ナガクサメヰル
『短歌』(角川書店 1961.7) 第8巻7号 p.35
10663
わが岸をしきりに抉る流れあり夜更くれば風の音を伴ふ
ワガキシヲ シキリニエグル ナガレアリ ヨフクレバカゼノ オトヲトモナフ
『短歌』(角川書店 1961.7) 第8巻7号 p.35
10664
三椏は毛深き花と触れて見つ夢の続きのしぐさのごとく
ミツマタハ ケブカキハナト フレテミツ ユメノツヅキノ シグサノゴトク
『短歌』(角川書店 1961.7) 第8巻7号 p.36
10665
新しき木鋏鳴らし薔薇切れば音叉の立てし音がかへり来る
アタラシキ キバサミナラシ バラキレバ オンサノタテシ オトガカヘリクル
『短歌』(角川書店 1961.7) 第8巻7号 p.36
10666
地取りして縄を矩形に張りゆけり梅の落ち実はたれも拾はず
ジトリシテ ナワヲクケイニ ハリユケリ ウメノオチミハ タレモヒロハズ
『短歌』(角川書店 1961.7) 第8巻7号 p.36
10667
風折れの木の折れ口に抗ひの痕をとどめてするどし幹は
カザヲレノ キノオレグチニ アラガヒノ アトヲトドメテ スルドシミキハ
『短歌』(角川書店 1961.7) 第8巻7号 p.36
10668
田から田へ落とす水音おもむろに養されて来しわれかも知れず
タカラタヘ オトスミナオト オモムロニ ヒタサレテコシ ワレカモシレズ
『短歌』(角川書店 1961.7) 第8巻7号 p.36
10669
夜の水は土手の切れめに光りゐて未詳の個所を嘗て怖れき
ヨノミズハ ドテノキレメニ ヒカリヰテ ミショウノカショヲ カツテオソレキ
『短歌』(角川書店 1961.7) 第8巻7号 p.36
10670
溶闇に転換さるる場面にて映画ならねばながながと会ふ
ヨウアンニ テンカンサルル バメンニテ エイガナラネバ ナガナガトアフ
『短歌』(角川書店 1961.7) 第8巻7号 p.36
10671
音量を下げつつ待つに鼓手の身振り映して久しきテレビ
オンリョウヲ サゲツツマツニ ドラマーノ ミブリウツシテ ヒサシキテレビ
『短歌』(角川書店 1961.7) 第8巻7号 p.36
10672
蛇の卵探すと森の少年ら風折れの木を跳びてすばやし
ヘビノラン サガストモリノ ショウネンラ カザヲレノキヲ トビテスバヤシ
『短歌』(角川書店 1961.7) 第8巻7号 p.36
10673
伴はれ旅ゆかむ日を思ひ来て楓の花の降る道に出づ
トモナハレ タビユカムヒヲ オモヒキテ カエデノハナノ フルミチニイヅ
『短歌』(角川書店 1961.7) 第8巻7号 p.37
10674
新しき銃と散弾買ひ込みて山に帰りしその後を知らず
アタラシキ ジュウトサンダン カヒコミテ ヤマニカエリシ ソノゴヲシラズ
『短歌』(角川書店 1961.7) 第8巻7号 p.37
10675
遺されし貼絵は持つ月明に半旗のやうな葉を垂るる木々
ノコサレシ コラージュハモツ ゲツメイニ ハンキノヤウナ ハヲタルルキギ
『短歌』(角川書店 1961.7) 第8巻7号 p.37
10676
墓碑銘をきざむドリルを支へゐて痙攣のやうに人の手うごく
ボヒメイヲ キザムドリルヲ ササヘヰテ ケイレンノヤウニ ヒトノテウゴク
『短歌』(角川書店 1961.7) 第8巻7号 p.37
10677
川底の石は光ると渡り来て息荒く貨車の過ぎゆくに遭ふ
カワゾコノ イシハヒカルト ワタリキテ イキアラクカシャノ スギユクニアフ
『短歌』(角川書店 1961.7) 第8巻7号 p.37
10678
おのづからつながる頸を夜々に待つ顔無き埴輪机に置きて
オノヅカラ ツナガルクビヲ ヨヨニマツ カオナキハニワ ツクエニオキテ
『短歌』(角川書店 1961.7) 第8巻7号 p.37
10679
鷺草の花の無数がはばたくと夕陽の河原騒立ちやすし
サギソウノ ハナノムスウガ ハバタクト ユウヒノカワラ サワダチヤスシ
『短歌』(角川書店 1961.7) 第8巻7号 p.37
10680
柱像の双手が支へゐし屋根の重み夜更けてわが肩に来る
アトラントノ モロテガササヘ ヰシヤネノ オモミヨフケテ ワガカタニクル
『短歌』(角川書店 1961.7) 第8巻7号 p.37