目次
/
全短歌(歌集等)
/
短歌
珊瑚珠
ゆられつつ
石臼の
墓土に
受け取れる
いかならむ
河原に
枯れ枝を
終電の
眼裏に
生蕃の
住みつきし
児らが待つ
何遂げむ
電光ニュースの
手袋の
妹の
雪割草の
岬まで
南面の
雪山の
流亡の
罪障の
笹原を
徐行せる
炭火匂ふ
風道を
人混みを
いつとなく
半音階
銀糸もて
10681
ゆられつつ片頬ほてるバスのなか花を齎すやうに訪ひたき
ユラレツツ カタホオホテル バスノナカ ハナヲモタラス ヤウニトヒタキ
『短歌』(角川書店 1962.4) 第9巻4号 p.14
10682
石臼のずれてかさなりゐし不安よみがへりつつ遠きふるさと
イシウスノ ズレテカサナリ ヰシフアン ヨミガヘリツツ トオキフルサト
『短歌』(角川書店 1962.4) 第9巻4号 p.14
10683
墓土に萌えたつはこべ抜き来しが母のはげしき性継ぎ得るや
ハカツチニ モエタツハコベ ヌキコシガ ハハノハゲシキ サガツギウルヤ
『短歌』(角川書店 1962.4) 第9巻4号 p.14
10684
受け取れる紙幣透かして見し女わが分身のやうに近づく
ウケトレル シヘイスカシテ ミシオンナ ワガブンシンノ ヤウニチカヅク
『短歌』(角川書店 1962.4) 第9巻4号 p.14
10685
いかならむ立願をして掲げたる古びし絵馬に残る蛇の画
イカナラム リフグワンヲシテ カカゲタル フルビシエマニ ノコルヘビノヱ
『短歌』(角川書店 1962.4) 第9巻4号 p.14
10686
河原に漁れる鷺ら足枷を不意に解かれしやうに飛び立つ
カハハラニ アサレルサギラ アシカセヲ フイニトカレシ ヤウニトビタツ
『短歌』(角川書店 1962.4) 第9巻4号 p.15
10687
枯れ枝をつたひて垂るる烏瓜に伸べて連理にうときわれの手
カレエダヲ ツタヒテタルル カラスウリニ ノベテレンリニ ウトキワレノテ
『短歌』(角川書店 1962.4) 第9巻4号 p.15
10688
終電のあとの夜更けに貨車通ふ遠き響きも住み古りて知る
シュウデンノ アトノヨフケニ カシャカヨフ トオキヒビキモ スミフリテシル
『短歌』(角川書店 1962.4) 第9巻4号 p.15
10689
眼裏に犇く古き墓のなか白々と寂し母の墓標は
マナウラニ ヒシメクフルキ ハカノナカ シロジロトサビシ ハハノボヒョウハ
『短歌』(角川書店 1962.4) 第9巻4号 p.15
10690
生蕃のやうにわめきて目醒めしが換気塔鳴る現も暗し
セイバンノ ヤウニワメキテ メザメシガ カンキトウナル ウツツモクラシ
『短歌』(角川書店 1962.4) 第9巻4号 p.15
10691
住みつきしころより残る切り株と仔犬をつなぐをりふしに恋ふ
スミツキシ コロヨリノコル キリカブト コイヌヲツナグ ヲリフシニコフ
『短歌』(角川書店 1962.4) 第9巻4号 p.15
10692
児らが待つ小鳥も棲まず年越えて枯れ木の瘤となりゆく巣箱
コラガマツ コトリモスマズ トシコエテ カレキノコブト ナリユクスバコ
『短歌』(角川書店 1962.4) 第9巻4号 p.15
10693
何遂げむ思ひともなし噴水と呼吸合ふまで立ちつくしゐて
ナニトゲム オモヒトモナシ フンスイト コキュウアフマデ タチツクシヰテ
『短歌』(角川書店 1962.4) 第9巻4号 p.15
10694
電光ニュースのとぎれし字句をつなぐ恣意蘇り来よかの同志
デンコウニュースノ トギレシジクヲ ツナグシイ ヨミガエリコヨ カノタワリシチ
『短歌』(角川書店 1962.4) 第9巻4号 p.15
10695
手袋のままダイヤルを廻しゐて不在を願ふ貌紛れなし
テブクロノ ママダイヤルヲ マワシヰテ フザイヲネガフ カホマギレナシ
『短歌』(角川書店 1962.4) 第9巻4号 p.16
10696
妹の弾かむワルツを選びをり分ち得る幸なほあるに似て
イモウトノ ヒカムワルツヲ エラビヲリ ワカチウルサチ ナホアルニニテ
『短歌』(角川書店 1962.4) 第9巻4号 p.16
10697
雪割草の鉢かたはらに寄せ呉れて旅の終りの朝餉ととのふ
ユキワリソウノ ハチカタハラニ ヨセクレテ タビノオワリノ アサゲトトノフ
『短歌』(角川書店 1962.4) 第9巻4号 p.16
10698
岬まで行かずに戻る冬のバス午後の日は浅く沖に差しゐて
ミサキマデ ユカズニモドル フユノバス ゴゴノヒハアサク オキニサシヰテ
『短歌』(角川書店 1962.4) 第9巻4号 p.16
10699
南面の傾斜に苺の花光りホース延べつつ人のぼりゆく
ナンメンノ ケイシャニイチゴノ ハナヒカリ ホースノベツツ ヒトノボリユク
『短歌』(角川書店 1962.4) 第9巻4号 p.16
10700
雪山の遺品をかこむ環のなかに確かめがたき死を恋ひゐたり
ユキヤマノ イヒンヲカコム ワノナカニ タシカメガタキ シヲコヒヰタリ
『短歌』(角川書店 1962.4) 第9巻4号 p.16
10701
流亡の歌ごゑか湧く夜の壁に風を呼びつつ暖爐燃ゆれば
リュウボウノ ウタゴヱカワク ヨノカベニ カゼヲヨビツツ ダンロモユレバ
『短歌』(角川書店 1962.4) 第9巻4号 p.16
10702
罪障のごとくときめき飾窓に血珠と謂へる珊瑚珠ありき
ザイショウノ ゴトクトキメキ ウインドウニ チダマトイヘル サンゴジュアリキ
『短歌』(角川書店 1962.4) 第9巻4号 p.16
10703
笹原を漕ぎてゆきたる夢にしてわが鋤きゐしはいづくの耕地
ササハラヲ コギテユキタル ユメニシテ ワガスキヰシハ イヅクノコウチ
『短歌』(角川書店 1962.4) 第9巻4号 p.16
10704
徐行せる車つらなり過ぎしあと坂は夜光の看板が立つ
ジョコウセル クルマツラナリ スギシアト サカハヤコウノ カンバンガタツ
『短歌』(角川書店 1962.4) 第9巻4号 p.17
10705
炭火匂ふ部屋に待ちゐて口約のむなしさなどを思ふみづから
スミビニオフ ヘヤニマチヰテ コウヤクノ ムナシサナドヲ オモフミヅカラ
『短歌』(角川書店 1962.4) 第9巻4号 p.17
10706
風道を阻む夜の木々揉み合へりつたなき別辞交はして来しに
カザミチヲ ハバムヨノキギ モミアヘリ ツタナキベツジ カハシテコシニ
『短歌』(角川書店 1962.4) 第9巻4号 p.17
10707
人混みを擦り抜けし時渡されて割符のやうな散らしをたたむ
ヒトゴミヲ スリヌケシトキ ワタサレテ ワリフノヤウナ チラシヲタタム
『短歌』(角川書店 1962.4) 第9巻4号 p.17
10708
いつとなくわれの纏へる影に似て敏く曇りを張る銀の匙
イツトナク ワレノマトヘル カゲニニテ サトククモリヲ ハルギンノサジ
『短歌』(角川書店 1962.4) 第9巻4号 p.17
10709
半音階追ひ詰むるやうに弾きゐしが黒鍵はつねに右に影置く
ハンオンカイ オヒツムルヤウニ ヒキヰシガ コッケンハツネニ ミギニカゲオク
『短歌』(角川書店 1962.4) 第9巻4号 p.17
10710
銀糸もて下絵埋めゆく刺繍より遅々としてわが日々の糊塗あり
ギンシモテ シタエウメユク シシュウヨリ チチトシテワガ ヒビノコトアリ
『短歌』(角川書店 1962.4) 第9巻4号 p.17