野分の章


10778
道のべの紫苑の花も過ぎむとしたれの決めたる高さに揃ふ
ミチノベノ シオンノハナモ スギムトシ タレノキメタル タカサニソロフ

『風』(風短歌会 1979.1) 通巻80号 p.41


10779
スリッパの爪先を揃へ置きて出づ夜に帰り来むみづからのため
スリッパノ ツマサキヲソロヘ オキテイヅ ヨニカエリコム ミヅカラノタメ

『風』(風短歌会 1979.1) 通巻80号 p.40


10780
膝の上に編みものを置きて聞く電話雪の降る夜と告げつつ遠し
ヒザノウエニ アミモノヲオキテ キクデンワ ユキノフルヨト ツゲツツトオシ

『風』(風短歌会 1979.1) 通巻80号 p.40


10781
洋傘へあつまる夜の雨の音さびしき音を家まではこぶ
カウモリヘ アツマルヨルノ アメノオト サビシキオトヲ イエマデハコブ

『風』(風短歌会 1979.1) 通巻80号 p.40


10782
もの音を立つることなきわが生活隣の庭は木を整ふる
モノオトヲ タツルコトナキ ワガクラシ トナリノニワハ キヲトトノフル

『風』(風短歌会 1979.1) 通巻80号 p.40


10783
もう何も見えぬ位置までへだたりて敵意のごとし残る思ひは
モウナニモ ミエヌイチマデ ヘダタリテ テキイノゴトシ ノコルオモヒハ

『風』(風短歌会 1979.1) 通巻80号 p.40


10784
一歩だに引けぬと思ひゐたりしが醒めてふたたび耳の鳴り出づ
イッポダニ ヒケヌトオモヒ ヰタリシガ サメテフタタビ ミミノナリイヅ

『風』(風短歌会 1979.1) 通巻80号 p.40


10785
空き壜の残りはさかさに交叉させ運び去りたり音もろともに
アキビンノ ノコリハサカサニ コウササセ ハコビサリタリ オトモロトモニ

『風』(風短歌会 1979.1) 通巻80号 p.40


10786
死の日までせぐくまりものを書くならむ落ちてみひらく椿の花は
シノヒマデ セグクマリモノヲ カクナラム オチテミヒラク ツバキノハナハ

『風』(風短歌会 1979.1) 通巻80号 p.40


10787
真っすぐに立つといふこのさびしさよ花の終れる向日葵の茎
マッスグニ タツトイフコノ サビシサヨ ハナノオワレル ヒマワリノクキ

『風』(風短歌会 1979.1) 通巻80号 p.40


10788
食べよとも寝よともたれも言はざれば目をしばたたく夜の明け近く
タベヨトモ ネヨトモタレモ イハザレバ メヲシバタタク ヨノアケチカク

『風』(風短歌会 1979.1) 通巻80号 p.40


10789
思はざる高みへ視線のゆく日にてみづきの花の真盛りに遇ふ
オモハザル タカミヘシセンノ ユクヒニテ ミヅキノハナノ マッサカリニアフ

『風』(風短歌会 1979.1) 通巻80号 p.40


10790
今のまに反故の類ひも焼きおかむ身を絞り人を恋ひし日ありき
イマノマニ ホゴノタグヒモ ヤキオカム ミヲシボリヒトヲ コヒシヒアリキ

『風』(風短歌会 1979.1) 通巻80号 p.40


10791
眠られぬ夜を明かすとも女にて眉をゑがくといふやさしさよ
ネムラレヌ ヨヲアカストモ オンナニテ マユヲヱガクト イフヤサシサヨ

『風』(風短歌会 1979.1) 通巻80号 p.40