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「短歌講座」
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昭和58年10月14日
②B
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大西 ・・・始まろうとしているという歌ですね。そこの『薪宴のやぶ蚊いぶしも済みしと聞く』、それで十分なんですけど、それでもよろしいんですけれども、『薪宴のやぶ蚊いぶしも済みしとぞ』という言い方もあるね、済みしとぞ。『薪宴のやぶ蚊いぶしも済みしとぞ満月の夜の羽衣の野を』。とぞ聞くという略なんですけれども、済みしとぞという言い方がある。そのことを覚えておきましょう。感じが出た歌ですね。やぶ蚊をいぶしてから草わらで能をやるわけですね。
41番。再検査、これは何だろう、受けるでいいのかな。文語だと受くる、『再検査受くる医院の鯉見事ぴちぴちと跳ね色の妖しき』『再検査受くる医院の鯉見事ぴちぴちと跳ね鯉の妖しき』。何か検査を受けるんだけれども、再検査ということで心中穏やかでない場面なんですね。そんなことで医院にいると、そこに飼われているコイが見事にぴちぴちと跳ねていかにも元気で、そして色も妖しく感じられたという歌ですね。『再検査受くる医院の鯉見事ぴちぴちと跳ね色の妖しき』、何となく作者の不安な気持ちを表そうとしているのでしょう。『再検査受くる医院の鯉見事ぴちぴちと跳ね色の妖しき』。そのときの気分が不安定だ、そんな気分が出ている、そんな感じですね。
それから43番。『子規庵の古き門扉に手触れつつ根岸短歌の発祥を聞く』『子規庵の古き門扉に手触れつつ』、たふれ、と読むかもしれませんね、『手触れつつ根岸短歌の発祥を聞く』。正岡子規がこもっていたという、その庵の古い扉に手を触れながら、根岸短歌会という明治の新しい短歌、新派の短歌の発祥の歴史を聞きましたという歌ですね。しっかりとその場面を歌っています。
それから、45番。『株分けを所望して植えし萩の花今年の秋にひそと咲き出ぬ』『株分けを所望して植えし萩の花今年の秋にひそと咲き出ぬ』。
A- すみません。ちょっと恥ずかしいんですけど、私の歌なんですけどね。
大西 はい。
A- 所望してというところ。ねがいてって書いて、ねがいてって(####@00:03:49)。
大西 そうですか。そうすると、願いてが入るわけね、願いて。
A- 所望するという意味をね、入れたいと思って。ただ願うっていう字を書いたり念じるっていう字を書いたりしたんですけども、意味がちょっと違うので。私は所望をしたわけで。だから、それを所望してって書いて仮名をねがいてってここに書いて。そういうつもりなんです。
大西 でも、所望してだっておかしくないですよ、歌として。
A- そうですか。
大西 『株分けを所望して植えし』だって、ちっとも構わない。所望してって普通の言葉を使うのが新派の短歌なわけだからね。別に優しい美しい言葉だけを使わなくてよろしいので、所望してなら所望してと書いて一向構わないですよ。願いてでもどっちでいいけれども。所望して植えし、株分けを願いて植えし。願いてっていうと、やっぱり歌っていうのは印刷した文字でも読むけれども、こうやって声を上げて詠んで聞く、耳で聞くこともあるから、所望してのほうがいいんじゃありませんか。所望してって言えは聞いても分かるもんね。所望するってよく使うし。普段使う言葉をどんどん取り込んで歌を新しくしていくのがいいんじゃないかな。
A- 自分では株分けを「ちょうだいちょうだい」ってお願いしたもんだから、どうしても願うってことになってしまったんです。
大西 そうですか。どちらでもいいですよ。『ひそと咲き出ぬ』、今年の秋にひっそりと咲き出しましたというんですが、咲き出ぬでいいかな。咲き出ぬ。
A- 咲き出づとか。
大西 そう、そのほうがいいですよ。『株分けを願いて植えし萩の花今年の秋にひそと咲き出づ』、そのほうが落ち着くわね。『株分けを所望して植えし萩の花今年の秋にひそと咲き出づ』、咲き出しました、咲き出づ。出で、出でたり、出づと活用する言葉ね。いいですね。
それから47番。『草むらの茂みに咲ける春蘭のほのかに匂う朝(あした)夕べを』『草むらの茂みに咲ける春蘭のほのかに匂う朝夕べを』。シュンランというのはあんまり目立たない花で、茂みの中でひっそりと咲いていて、そして匂いのいい花で、ほのかにあした夕べにそこはかと匂う。シュンランの感じをよく描いていますね。『草むらの茂みに咲ける春蘭のほのかに匂う朝夕べを』。いいですね。
49番。『泡立草咲きたわむのを狭めつつ高架工事の音響き合う』『泡立草咲きたわむのを狭めつつ高架工事の音響き合う』。セイタカアワダチソウというアメリカから来たという雑草ですけれども、そのアワダチソウが咲きたわむ。高く背が伸びて、そしてたわむようになっている。その野原を狭めるようにして、高架工事をする音が響き合っていますという歌で、これも現代の風景が歌われていますね。『泡立草咲きたわむのを狭めつつ』、ここら辺がうまいんじゃないかな。『咲きたわむのを狭めつつ高架工事の音響き合う』。現代の、いろいろな工事が行われますが、それをよく表してると思う。
それから51番。『社の仕事厳しきことか枕辺に今朝も抜けおり吾子の黒髪』『社の仕事厳しきことか枕辺に今朝も抜けおり吾子の黒髪』。お子さんが会社に勤めたのかな。会社の仕事が厳しいためだろうか、抜け毛が激しいようだと。枕辺に今朝も抜け毛が落ちているのを、心配げにお母さんが眺めている歌なんですね。『社の仕事厳しきことか枕辺に今朝も抜けおり吾子の黒髪』。抜け毛を見てもその生活の厳しさを思いやるお母さんの優しさが出ているんですね。厳しきことか、そこら辺かな、直すとすれば。『社の仕事厳しきことか』、なんかうまい言い方ありませんか。厳しきことか。故か。『社の仕事厳しき故か』。頭を使う、それで髪の毛が抜けるんかしらと思っている。『社の仕事厳しき故か』、故に。
B- 故に、かもしれない。
大西 故か、かもしれないね、疑問をちょっと残して。『社の仕事厳しき故か枕辺に今朝も抜けおり吾子の黒髪』。子どもを勤めさせても、母親っていうのは苦労が尽きないものですね。このお子さんはお床を抜け出してさっと行っちゃうんだわ。だから、お布団畳むのお母さんらしいな。いろんな生活が感じられますね。いろんな歌があって面白かったです。
後の1首はこの次のお楽しみに。でないとみんな来ないと困っちゃうから。図書館が困っちゃうでしょう? この次は質問があったりしたら、どんどんおっしゃっていただいて。できるだけ、2日間しかないけれども、現代短歌ってなんだって、私たちはどんな歌を作ればいいんだってことが分かるように少しでもお話し合いをいたしましょう。少し過ぎてしまいました。どうも失礼いたしました。
一同 ありがとうございました。
C- どうもご苦労さまでした。これで終了いたします。次回は、21日の2時から同じ場所で行います。
大西 ああ、そうなの。
D- 先生、ちょっとよろしいでしょうか。これ私の作ったもんなんですけどね、この(####@00:11:18)。
(了)