下部西浜層の最上部に二枚の泥炭層をはさんだ砂層がある。泥炭は海のなかでは生成されない。したがって、この泥炭は当然、当時の沼沢地で形成されたことになる。となると、晩氷期から進んできた海の浸入もこの時期になって、一時的な停滞あるいは逆に後退があったのではないかと考えられる。ではその時期はいつなのだろう。
二枚の泥炭層のうち、上部のものについては、幸いに14C年代値があり、約一万五〇〇年前となっている。つまり、約一万年前ころの海岸線は、現在の海岸線よりやや沖合にあり、花畔付近は沼沢地で、そこに泥炭が生成されていたことになる。そして、泥炭をはさむ砂層は河川の氾らん堆積物とみてもよいだろう。この沼沢地化したことを裏付けるいまひとつの現象は、この砂層の下位にある軽石層である。この軽石層は、分部越のコアでも河岸段丘礫層の上に、ほぼ同じ厚さで堆積している。このことは、この火山灰が陸上に降下したことを示しているようなのである。いずれにせよ、約一万年前くらいの時期には、海進の停滞あるいは小海退があったことは事実である。
二枚の泥炭層の花粉組成をみると、両者ともトドマツ・エゾマツあるいはアカエゾマツを伴うものの氷期にはきわめてわずかだったクルミ属・ニレ属・コナラ属が出現してくる。とくに上部の泥炭層ではこれらの含有率が急増し、より温暖化の傾向が現れている。この傾向は次の本格的な海進の前触れとして注目したい。なお、細粒軽石の噴出源は明らかにされていない。