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早期の石器

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 貝殻文平底土器に伴う石器群の様相は、道東北部では石鏃(せきぞく)、石槍(せきそう)、両面加工のナイフ、縦長の石刃様剝片を素材とした削器(さっき)、搔器(そうき)、彫刻器、扁平な円礫の長軸両端を打ち欠いた石錘(せきすい)、敲石(たたきいし)、台石(だいせき)等がセットとなり、東釧路Ⅲ式土器以降に至ってもその基本形は変化がない状況となる。ただ石刃様剝片の出現頻度が低くなる傾向が見られる。

図-6 縄文早期の石器群
1~5(前半期;T281遺跡第1号ピット) 6~17(後半期;S237遺跡)

 札幌市内において発見されている貝殻文・沈線文平底土器は、他の時期の土器と混在して発見されるため、どういった石器群が伴うか必ずしも明確ではないが、多量の石錘・断面形が三角形の自然礫の狭い稜線を使用面とする擦石(すりいし)が特徴的に発見されている。石錘はともかく、断面三角形の擦石は道東北ではほとんど見られないものであり、道南西部の縄文早期の遺跡では多く見られる。また、剝片石器のうち石匙は道南西部ではかなり早い時期から見られるのにたいして、道東北の遺跡ではほとんど見られない等の事実がある。これらは、地域差とともに生業の違いも示していると考えられるものである。
 早期後半期の石器群は、とくにS二五六遺跡での三軒の竪穴住居跡から得られた良好な石器群がある。ここでは、石錘がまったく発見されなかったが、凹石(くぼみいし)、断面三角形の擦石、大型の石皿が多く残されていた。狩猟用具と考えられる石鏃、石槍、各種のナイフ等は非常に少なく、非常に粗雑な造りであることが特徴として指摘される。
 竪穴住居跡の床面からは、くるみ殻片、ミズナラ等(いわゆるどんぐり類)の堅果類が炭化した状態で数多く検出されている。凹石、断面三角形の擦石、大型の石皿等は用途的にはこれらの植物の加工に主に用いられたもので、現在我々が考える以上に植物食に対する依存度が高かったものと推定される。