一口に農業振興策といっても、さまざまなタイプの農業振興策がある。本市独自の農業振興策もあれば、国や道から補助金や融資を受けて実施されるものもある。また、農業振興策プロパーのものもあれば、地域振興策の中に農業振興策を含むケースも少なくない。この時期に実施された国レベルの農業振興策を一瞥した上で、本市独自の農業振興策を取上げることにする。
昭和二十六年(一九五一)三月、積雪寒冷単作地帯振興臨時措置法が公布された。同法は、「自然条件にめぐまれぬ、経済的に遅れた積雪寒冷単作地帯に対して、農業生産条件をすみやかに整備して生産力を高め、農業経営、農民生活の安定改善を図ることを目的とした総合的、立体的なもの」(広報とよひら8号、昭27・1・1)であった。琴似町・豊平町・手稲町では、それぞれ「農業振興計画書」を作成し、三町ともに同年十一月の町議会で議決された。
各町の「農業振興計画書」をみると、事業の内容(事業種目)には大差がなく、耕地拡張、土地改良、耕地改良、土地利用増進、土地保全、牧野改良(以上は土地基盤の整備)、耕種改善、自給肥料増産、病虫害防除、農機具導入、家畜導入、畜産施設拡充、家畜衛生対策、自給飼料施設(以上は生産施設の拡充)、小水力発電施設・農業倉庫など共同施設拡充(以上は経営生活改善)などであった。そして、各町の事業費は、琴似町二億七七三九万余円、豊平町六億三九三八万余円、手稲町八億五七五七万余円であり、当時としては壮大な規模を誇っていたものの、どの程度実施されたかは不明である(以上について、昭28 琴似町勢要覧、広報とよひら 8号 昭27・1・1、手稲町誌 下 昭43を参照)。
ところで、『事務概況』によれば、第一回札幌市畜産品評会、モデル農園事業(昭25)、第一回札幌市農業振興共進会(昭26)、動力撒粉機購入、優良種苗増殖事業、園芸農業振興策、家畜貸付事業(昭27)といった具合に、それまでの主要食糧増産と米穀供出一辺倒であったものが、農業の生産性を向上させるために、多様な振興策が打ち出されてくるという意味で、札幌市の農業は昭和二十五年に一つの転機を迎えたようだ。
そもそも農業の生産性を向上させるための技術には四つの領域がある。第一に土木技術(客土や圃場整備などの土地基盤整備)、第二に機械化作業体系の確立(集出荷・貯蔵施設などを含む)、第三に化学技術(化学肥料、農薬、除草剤など)、第四に育種・栽培技術(品種改良など)であるが、以下に、この時期における札幌市の農業に即してみていくことにする。