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政令指定都市における札幌の特質

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 こうした経済のサービス化は、近年の日本経済の特徴であると思われるが、そのなかでも札幌固有の特徴というものははたしてあるのだろうか。政令指定都市の市内総生産の産業別比率を比較してみると、他都市と札幌の相違が明らかになる。まず、経済のサービス化を示す指標として各都市の第三次産業比率を図1に掲げた。ここでいう第三次産業とは第一次産業(農林水産業)、第二次産業(鉱業、製造業、建設業)を除くすべての産業である。まず、スタートの昭和五十八年度には都市ごとに大きな差があり、高い順に福岡(八三・二パーセント)、札幌(七九・〇パーセント)、大阪(七四・五パーセント)、広島(七一・七パーセント)、名古屋(七〇・〇パーセント)、東京(六七・四パーセント)、京都(六五・〇パーセント)、神戸(六三・六パーセント)、横浜(六一・七パーセント)、北九州(五八・二パーセント)、川崎(三五・七パーセント)となる。東京、大阪でさえ七〇パーセント前後であり、また北九州、川崎などが工業都市の性格を強くもっているなかで、福岡、札幌の高さは突出していた。これらの都市では第一次産業は小さい比率しかしめないので、第三次産業比率の大きさは第二次産業の大きさと反比例している。その後、第三次産業比率はすべての都市で上昇し、平成十二年度には北九州、川崎を除き七〇パーセント以上に達し、福岡、札幌に加えて東京、大阪、広島が八〇パーセントを超えている。札幌は福岡に次ぐ高さを示している。このように札幌は、政令指定都市のなかでも早期から第三次産業比率が高かったのである。

図-1 市内総生産における第3次産業比率
大都市統計協議会『大都市比較統計表』各年

 市史5上において、昭和四十年代に建設業の生産所得が製造業のそれを追い越したことを明らかにした。本巻の対象時期では、建設業が製造業を一貫して上回っている。これは札幌のみの特徴なのだろうか。このことを明らかにするために表3に政令指定都市の製造業、建設業比率をまとめてみた。その結果、建設業が製造業を上回るのは札幌、福岡のみであり、他都市では製造業が建設業を上回っていることがわかる。もっとも福岡は六十二年度、平成九年度に製造業が建設業を上回るが、札幌は一貫して建設業が製造業を上回っているのである。札幌の産業構造上の特質は、第三次産業の比率が高いこと、そして第二次産業では建設業の比率が高いことである。
表-3 都市別製造業・建設業比率比較 (単位:%)
昭51年度 59年度 平4年度 12年度
札幌市 製造業 10.8 8.3 6.8 4.6
建設業 14.9 11.7 9.7 9.2
東京都 製造業 25.6 25.1 17.7 11.7
建設業 7.5 6.7 8.4 6.1
川崎市 製造業 51.4 55.8 43.1 30.4
建設業 5.9 5.2 8.4 5.3
横浜市 製造業 32.6 28.2 20.8 17.7
建設業 7.7 9.5 10.9 8.1
名古屋市 製造業 24.3 24.0 19.4 14.4
建設業 6.3 6.0 7.6 6.0
京都市 製造業 28.9 29.2 27.2 20.5
建設業 5.4 5.7 5.3 6.3
大阪市 製造業 28.7 21.8 16.4 11.8
建設業 5.1 3.5 4.5 2.7
神戸市 製造業 31.8 29.9 23.2 19.7
建設業 5.8 7.0 9.2 7.9
広島市 製造業 19.4 16.1 12.9
建設業 8.1 10.0 5.7
北九州市 製造業 34.6 35.0 32.5 22.3
建設業 10.0 7.3 8.7 9.4
福岡市 製造業 8.2 7.2 6.4 5.2
建設業 10.9 8.5 9.0 6.2
大都市統計協議会『大都市比較統計表』各年

 さて、市内総生産の大きさという点において政令指定都市のなかでの札幌の位置はどのようなものだったのだろうか。表4は、政令指定都市の市内所得総額を比較したものである。昭和四十九年度には札幌は九位であった。その後、札幌の順位はしだいに上昇し、平成二年度から六位、七年度から五位に浮上している。いま昭和四十九年度を一〇〇とした平成十二年度の指数を求めると、一番高い指数は札幌の四九七・三であり、二位福岡(四四七・一)、三位横浜(四四一・九)、四位東京(四〇三・四)、五位名古屋(三八二・八)と続く。本巻の対象時期に札幌は政令指定都市中最高の成長都市だったのである。もっとも、この分析は、人口の変化を反映しているので、人口増加が著しい都市は成長率が高いという結果となっている。そこで、人口変化の影響を除去するために一人あたり市内所得を算出し、図2を作成した。すると、札幌の位置は格段に下がり、平成二年度以降一〇位または九位であり、十一年度、十二年度に七位に上昇している。昭和四十九年度を一〇〇とした平成十二年度の指数は、高い順に一位東京(四三〇・九)、二位大阪(三九三・一)、三位名古屋(三六七・一)、四位横浜(三三〇・五)、五位札幌(三二八・一)となる。札幌が最高の成長率を示したのは、人口増加が大きな要因となっていることがわかる。
表-4 都市別市内所得 (単位:百万円)
昭49年度 53年度 60年度 平成2年度 7年度 12年度
札幌市 1,327,651 2,134,645 3,745,840 5,451,475 6,285,217 6,602,220
東京都 21,531,100 30,543,800 52,828,500 87,216,771 84,369,900 86,848,500
川崎市 1,426,462 1,883,611 3,641,057 4,626,946 4,885,733 4,326,719
横浜市 2,780,816 3,921,161 6,786,839 9,886,333 10,717,799 12,289,191
名古屋市 3,301,135 4,491,258 7,950,124 11,880,344 12,386,804 12,637,619
京都市 1,711,085 2,544,983 3,877,307 5,252,206 5,691,337 5,560,713
大阪市 6,273,024 8,682,600 16,053,706 21,464,802 20,616,414 22,805,833
神戸市 1,681,039 2,348,466 3,993,920 5,775,319 5,960,617 5,718,330
広島市 3,044,720 4,423,921 4,694,871 3,941,471
北九州市 1,267,716 1,842,309 2,929,823 3,473,148 3,465,823 3,578,604
福岡市 1,440,005 2,121,825 3,808,224 5,282,016 5,921,353 6,438,170
大都市統計協議会『大都市比較統計表』各年


図-2 1人あたり市内所得
大都市統計協議会『大都市比較統計表』各年

 ただし、バブル崩壊後の平成四年度には他都市がすべて前年度を下回ったのに対し、札幌だけが前年度を上回った。三年度を一〇〇とする十二年度の指数は、横浜(一〇九・五)、福岡(一〇七・〇)、札幌(一〇五・七)の順で高く、また東京、川崎、名古屋、神戸、広島は一〇〇を割り、バブル景気崩壊後の傷跡が深刻である。バブル崩壊後に札幌の一人あたり市内所得がなぜ増大しえたのかは大変重要な検討課題である。