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賃金及び消費支出の拡大と勤労者意識

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 昭和三十年代に「三種の神器」と言われたテレビ(白黒)・電気洗濯機・電気冷蔵庫などの耐久消費財が、高度成長期の所得上昇に合わせて急速に普及した(市史5上 七章)。これらが成熟化した四十年代には、カラーテレビ・クーラー(ルームエアコン)・乗用車が「新三種の神器」(三C)として喧伝されるようになり、五十年(一九七五)には札幌の乗用車単純普及率が四三・六パーセント(登録台数一八万二九三八台)と全国の普及率を上回り(表27)、六十年には六七・三パーセントとなった(統計書)。この間に、勤労者の一人あたり月平均賃金は名目で四・二倍になり、勤労者世帯の消費支出金額も約三・四倍に上昇していた(表28)。だがそれは長時間労働の代償でもあり、五十九年の一人平均月労働時間数一七七・九は、全国の一七六・三時間、道内の一七七・二時間をも上回っていた(道年鑑 昭61)。消費支出内訳では食料費の割合が二五パーセントに低下し、その他の費目が高くなった。しかし、可処分所得のうち消費支出との差額は土地や住宅、車などの耐久消費財の長期ローンに回った。五十六年二月の札幌地区春闘集会で、哲学者の花崎皋平が「賃上げなどやめて今の賃金で生活できる生き方を追求すべきだ」と提言し注目を浴びた。労働組合のなかでも、「クーラーや、合成洗剤や、石油製品をどんどん買って、公害をまきちらし、電気の使用をガンガン煽ってきたのが、高成長時代の日本の勤労者の実態」ではなかったかとして、「生活を見直そう、生き方を変えよう」という問題提起が活発に行われるようになった(昭56札幌地区労定期大会議案書)。
表-27 国内の高度成長期における耐久消費財普及率の推移(%)
      年次
品名
昭35昭40昭45昭50
テレビ(白黒)44.795.090.149.7
カラーテレビ30.490.9
電気洗濯機40.678.192.197.7
電気冷蔵庫10.168.792.597.3
乗用車10.522.637.4
電子レンジ12.9
経済企画庁『消費と貯蓄の動向』による。―は項目のないもので、<電子レンジ>は昭和49年の数値。

表-28 札幌市勤労者の賃金・消費支出額・物価指数及び労働時間の推移(昭和45~平成12年)
種別勤労者月1人平均賃金男女別月1人平均賃金勤労者世帯月平均消費支出金額市内消費者物価指数勤労者月1人平均労働時間
年次総時数出勤日数
昭4581,59494,75750,82685,94733.7197.023.6
 50194,049224,368127,020161,68657.4181.222.8
 55301,349343,802194,227231,41079.2181.823.0
 60345,290409,588209,315289,07389.3174.722.5
 63357,260439,149215,679319,69389.3175.622.5
平 2378,254463,834229,165319,30993.2169.321.8
  4405,985506,862242,419341,45498.0162.320.7
  6417,083529,137228,928341,17499.6156.420.1
  8382,698478,667231,489332,44298.3158.120.6
 10373,668473,824230,205340,514100.5157.220.5
 12384,069502,706253,588328,533100.0153.720.1
『札幌市統計書』『市政概要』より作成。勤労者平均賃金は、各年12月末の常用労働者30人以上の民間事業所のうち、おおむね130~150事業所(約3万6000~4万8000人)で現金で支払われた給与を12カ月で除した単純平均額。消費者物価指数は、平成12年を100とした指数。労働時間の総時数は、所定内と所定外を合わせた時間数で休憩時間を含まない。

 大手企業を中心に週休二日制への取り組みが徐々に進むなか、六十一年頃から道内各地でゴルフ場や大型リゾート開発が盛んになる一方、札幌では大型マンションや個人住宅建設ブームが起こる。平成元年(一九八九)には、市内の分譲マンション新規発売戸数が五二八四戸(前年比七・二パーセント増)と二年連続で過去最高を記録した。土地価格急騰の影響で平均七二六三万円の高額物件も登場する一方、格安マンションは一〇八倍の競争率となり、また、一戸建て分譲住宅も三〇〇〇万円台から四〇〇〇万円台前後に上昇したほか、二億円を超す建売住宅も登場して消費者を驚かせた(道年鑑 平3)。一方、平成元年度「道民生活白書」では、「働きバチ」への反省と、家庭や人間関係を重視する「心の充足感」を求める生活意識も強くなった。生活分野の「満足度」をみると、三二項目のうち「不満」が九項目で、最も高いのは家計・支出(貯蓄、負債、消費支出)が六三・三パーセントに上り、就職機会、収入・所得、就労条件、老人福祉などが続く。また、全国的には、依然として長時間労働や合理化によるストレスの増加、出張過多や単身赴任などが原因とみられるサラリーマンの「過労死」が深刻な社会問題となっていた(道年鑑 平3)。
 バブル期に年間五パーセント台の伸び率で増加した全国の自動車保有台数も、平成五年(一九九三)には一世帯あたり保有率が〇・九台となり、北海道は〇・八七台(道新 平5・11・26)、札幌市は〇・八台となった(統計書)。だが増加率は、前年比で二・八パーセント増に低下した。総理府の翌六年五月「国民生活に関する世論調査」では、前年より生活が低下したとする人が三・四ポイント増加して二二・二パーセント。生活に対する満足度では「満足」が六五・三パーセントで四・五ポイント下がり、所得、耐久消費財の項目で「不満」が増え、バブル経済崩壊後の「暮らしぶり」に陰りが見え始めた。にもかかわらず、全般的生活程度では、約九割が「中流」と自己認識している結果となった。ただし、年収一〇〇万円未満でも六割以上が「中」、一〇〇〇万円以上の九割強が「中」と答えるなど(道新 平6・8・14)、「一億総中流」と「さながら『中流』のバーゲンセールといった状況」(今田高俊 中間階級その成熟と変容)を生んだ同調査意識の実態は、あくまでも世間一般からみた感覚に過ぎず、翌七年の調査でも、前年を上回る九一・三パーセントが「中流」と回答した(道新 平7・8・21)。