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バブル経済と住宅建設

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 昭和六十年(一九八五)以降、資産の代表格である株と市街地の土地価格が高騰し始め、資産の水膨れ的膨張によって生じるバブル経済状況が顕著となった。そして平成三年の株式暴落によりその状況が崩壊した。市民の生活にバブル経済はどのように反映したのだろう。ここでは、市民が高額なマイホームを購入しなければならなくなった原因の一つである、住宅地価の高騰と住宅の価格、さらに住宅資金の調達についてみてみよう。
 (1) 住宅地価の高騰 昭和四十九年のオイルショック時に、一平方メートルあたりの地価公示平均価格(以下「平均価格」と略記)は土地投機取引により、前年より八二・三パーセントも上昇し三万一一〇〇円にはね上がった(表7)。しかし、国土法による規制と税制改正などにより、以降、対前年の変動率は一桁台の低水準で徐々に値上がりし、バブル期の六十年から六十三年にかけても六万円台で安定的に推移していた。ところが、六十三年後半になると急騰し始め、六十四年一月一日現在が約八万二〇〇〇円、平成二年には約一〇万八〇〇〇円、三年には最高の約一三万六〇〇〇円という、わずか三年間で二倍の高さになった。このような住宅地の急騰現象は、昭和六十一年に東京都区部から始まった住宅地価の高騰局面が、三年のズレを持って札幌に波及した結果である。原因は「地価は下がらない」という土地神話によって支えられた不動産業界の投機的取引の増加や、投機目的での資金が大都市圏から地方圏に流入したことなどであり、これらを六十一年以降の低金利による金融緩和政策が支えた(札幌市の人口と住宅 平2・7国調報告)。
表-7 住宅地1平方メートルあたり平均価格の推移(地価公示による)各年1月1日現在
標準
地点数
住宅地の1m2当たり
平均価格(円) ①
平均変動率(%)
標準
地点数
住宅地の1m2当たり
平均価格(円) ①
平均変動率(%)
昭471816,000昭6217664,7001.3
 483519,70036.8 6317667,1002.6
 4916231,10082.3 6418282,40014.1
 5016227,800△10.4平 2189108,40021.5
 5116228,7002.4  3190136,10027.4
 5216229,9003.1  4235126,100△2.7
 5316331,8003.9  5282115,200△5.3
 5416834,9005.4  6361104,400△5.4
 5517939,0008.8  739998,900△3.2
 5618543,5009.3  839996,300△1.9
 5717649,6008.7  939993,700△1.5
 5817656,8007.6 1039991,600△1.9
 5917660,1005.2 1136283,800△8.5
 6017662,4003.8 1236277,900△6.9
 6117663,8002.1
『札幌市の人口と住宅』平成2.7.12年国勢調査結果報告より作成。
①は、標準値ごとの1m2あたりの価格の合計を当該標準地数で除して求めたもの、②は、継続標準値ごとの価格の対前年変動率の合計を当該標準値数で除したものである。△はマイナス。

 一方、商業地の急騰は住宅地以上に激しく(表8)、六十四年一月一日現在に前年比一三二パーセントに急騰していた。住宅地も含めたこのような六十四年一月の変動率全国一にまで高騰した背景にあるのは、札幌に集中する人口で、道内各地から毎年二万七〇〇〇人が移入したことによる住宅の需要に対して、東京圏からの土地投機の動きやホテルなどの建設ラッシュが一層拍車をかけたことによる。市は地価高騰に歯止めをかけるため、すでに六十二年十月一日から国土法に基づき、商業地のJR札幌駅付近から大通、狸小路、薄野(すすきの)一帯三五〇ヘクタールを監視区域に設定したが、平成元年にはさらに拡大して、地下鉄沿線の住宅地を含め計四八〇〇ヘクタールを網の目のように監視区域とし、土地取引における届け出義務範囲を、商業地三〇〇平方メートルから二〇〇平方メートルに狭める対策を講じた(道新 平1・3・10)。しかし、地方自治体としての限界もあり、届け出の実数は多くはなく、充分に有効な結果は得られなかった。
表-8 商業地平均地価変動率
各年1月1日
年次対前年変動率(%)
昭606.7
 618.8
 6215.2
 6323.4
 6432.2
『道新』(平1.3.10)より作成。

 しかしその後、平成元年十二月に土地基本法の施行、二年四月に不動産業向け融資の総量規制の実施、そしてバブル経済の崩壊に加えて、三年五月には総合土地政策推進要綱の閣議決定がなされ、地価税創設をはじめとする土地税制の改正(平成三年度)など、政府による一連の土地政策が行われた結果、四年以降、平均価格は下落に転じ、九万六三〇〇円とピーク時(三年)の七割の価格に落ち込んだ。その後、七年に一〇万円を割り込み、不況期の十二年は七万七九〇〇円となり、急騰する直前の昭和六十三年の水準に近づき「地価は下がらない」という神話も崩れた。
 (2) 住宅と分譲マンションの価格 次に購入の平均価格と、それが年間収入の何倍に相当したかを建売住宅分譲マンションについて表9と表10によって推移をみてみよう。
表-9 建売住宅および分譲マンションの平均価格の推移各年中
建売住宅分譲マンション
戸数平均土地面積
(m2)
平均建物面積
(m2)
平均価格
(万円)
戸数平均専有面積
(m2)
平均価格
(万円)
建売住宅との格差
(万円)
昭63344204.39114.192,5132,93079.81,923△590
平 1613194.59112.382,5682,71085.72,338△230
  2716213.22125.973,5052,52085.42,767△738
  3896210.54127.673,8444,38376.63,256△589
  4754202.60115.563,3634,30779.52,674△690
  5445201.36114.623,2976,14978.42,477△821
  6586211.92121.643,55011,40078.92,420△1,130
  7611197.54114.783,2777,67282.12,547△730
  8539214.41126.683,6048,73486.32,576△1,028
  9425200.10122.703,4084,46589.72,839△569
 10336191.91121.413,1514,21387.22,605△546
 11301189.60120.923,2593,96188.72,663△596
 12265195.01128.223,1985,32791.62,720△478
『札幌市の人口と住宅』平成2.7.12年国勢調査報告より作成。
戸数は調査対象の戸数であり総数ではない。マンションの昭和63~平成2年は住宅金融公庫物件のみを対象。面積にバルコニーを含まない。

表-10 勤労者の年間収入に対する住宅取得価格の倍率
年次平均価格
(万円)
年間収入
(万円)
年間収入に対する倍率
(倍)
建売住宅分譲マンション建売住宅分譲マンション
昭632,5131,923552.74.53.5
平 12,5682,338582.34.44.0
  23,5052,767608.45.84.5
  33,8443,256621.56.25.2
  43,3632,674643.65.24.2
  53,2972,477665.05.03.7
  63,5502,420644.75.53.8
  73,2772,574663.54.93.8
  83,6042,576662.85.43.9
  93,4082,839663.25.14.3
 103,1512,605658.24.84.0
 113,2592,663650.55.04.1
 123,1982,720634.25.04.3
『札幌市の人口と住宅』平成2.7.12年国勢調査報告より作成。
原資料は(有)住宅流通研究所、年間収入は総務庁家計調査年報による北海道の勤労者世帯の平均。

 土地代が高くなれば、土地付き販売の建売住宅は相対的に当然高値になってくる。表9の建売住宅は、急騰する前年の六十三年に二五一三万円(土地面積二〇四・三九平方メートル・建物面積一一四・一九平方メートル)であったが、次第に上昇し、三年後、土地がピークを迎えた平成三年には、三八四四万円(土地面積二一〇・五四平方メートル、建物面積一二七・六七平方メートル)に値上がりし、その差額は一三三一万円である。分譲マンションをみると、六十三年に一九二三万円であったのが、やはり平成三年に三二五六万円に値上がりし、その差額は一三三三万円である。では、三年の購入価格は、年収の何倍に相当するかについて、勤労者世帯の平均一カ月賃金(表10)にみると、建売住宅は平均年収六二一万円の約六・二倍、分譲マンションは五・二倍となり、昭和六十三年に建売が四・五倍、マンションが三・五倍で購入できたものをはるかに超えて、やはり、年収倍率でも最高となった。年収の五、六倍の物件を購入したことは、毎年の賃金上昇率を超えていることからも、三年の資金調達は住宅金融公庫の借入金(一一八五万円)と同額に近い手持ち金(九四七万円)を用意する状況(表11)となった。平成三年に、市内で建売住宅分譲マンションを購入した人にとっては、不公平さを伴う価格となったことが分かる。その後、四年(一九九二)以降は土地・建売住宅分譲マンションのいずれもが値下げとなった。
表-11 札幌市個人住宅(一般貸付け)建設資金利用者の実態
年次年齢
(歳)
家族数
(人)
年収
(万円)
住宅延べ面積
(m2)
建設費
(万円)
手持ち金
(万円)
公庫からの借入金
(万円)
昭5941.44.4484.9117.31,573549.0不明
 6042.24.2493.3117.31,541563.0
 6142.24.1537.6121.61,618568.0
 6242.24.1557.3126.41,751567.0
 6341.74.1579.0127.81,860611.0
平 142.64.1608.4132.42,034638.0
  242.54.2652.6132.12,138827.0
  342.84.1693.4133.02,251947.11,185.2
  443.14.2726.8135.72,376897.01,300.9
  543.74.1739.6140.52,507774.31,619.0
  643.44.0754.5139.12,519739.71,774.9
  743.54.1782.0146.12,655959.11,543.0
  842.64.0672.3143.82,406749.91,641.1
  942.84.1696.9145.52,441814.91,606.0
 1042.83.9693.7144.32,374697.81,677.1
 1142.43.8685.4142.62,355651.01,767.6
 1241.93.8681.6144.22,382616.01,731.1
原資料は住宅金融公庫北海道支店資料、『札幌市の人口と住宅』平成2.7.12年国勢調査報告より作成。
建設資金には土地代を含まない。収入は表10と一致しない。

 (3) 建築ラッシュのバブル期とその前後 以上のことを踏まえて、札幌市内の住宅が何時の時期に建設されたかをみると、図3に示したように、バブル期とその前後に著しく建築されていた状況が分かる。平成十年(一九九八)十月一日現在の住宅数約七一万六〇〇〇戸のうち、昭和五十六年から平成二年の一〇年間で約三八パーセントにあたる二七万戸、三年から七年の五年間で一七・六パーセントにあたる約一二万六〇〇〇戸が建てられ、これを合計した昭和五十六年から平成七年までの一五年間だけで、合計約四〇万戸が建てられた。十年十月現在の市内の住宅総数七一万六三〇〇戸の所有者は、持ち家約三三万七一〇〇戸、市営借家二万八三〇〇戸、公団・公社の借家七九〇〇戸、民営借家二九万六九〇〇戸、給与住宅二万四六〇〇戸となっている。持ち家の約三三万戸のうち七割近くが一戸建てで、分譲マンションなどの共同住宅は三割弱であるが、分譲マンションの増え方は大きく、昭和六十三年現在では四万三三〇〇戸だったのが、平成五年現在で五万七三〇〇戸、十年現在には九万四八〇〇戸と、バブル期だけで二倍以上も増えた。同じく民営借家二九万六九〇〇戸のうち、九割近くを賃貸マンションやアパートが占めている。マンションの増加原因には、一戸建てよりも平均して安価であり、都心部の高齢者にとっては除雪の心配が少ないこと、交通の利便性や病院に近いことなどがあり、サラリーマンにとっては職住接近による余暇の利用などの利点がある。特に一戸建ての維持管理が困難となり、マンションに移転する高齢者が増える傾向にあった(札幌市の人口と住宅 平成12年国調報告)。

図-3 札幌市住宅数の建築の時期別割合(平成10年10月1日現在)

 また、逆にバブル経済の余波により札幌市内の地価高騰のため、札幌市内から周辺地域の江別市・北広島市・石狩市・恵庭市の大規模団地にマイホームを求めて転出する場合も多くあった。