私立幼稚園への市の助成は、私学経営の独自性を守るという観点から、最小限に抑えられていた。昭和四十六年四月現在においては、私立学校運営補助金(昭31年開始)、私立学校施設整備貸付金(同39年)、園長及び教職員の研修事業を行う私立幼稚園研修費補助金(同41年)などの補助金が支給されていたが、経営維持のための各種の経費については、父母から徴収される入園料、保育料でもって充当されていた。園児一人あたりにすると、道・市から私立幼稚園への助成は、四十六年度において合わせて年間二四〇〇円で、市立幼稚園に投入される市費が五三万六〇〇〇円と「きわだった対照」(十三期小史)をなしていた。
四十六年十月、新年度園児募集を前に、札幌私立幼稚園連合会は、翌春から入園料を四〇〇〇円、保育料を一二〇〇円値上げすることを申し合わせた。それぞれ、五〇パーセントと約三〇パーセントアップである。その理由は人件費の高騰であり、公立幼稚園との格差は広がる一方であった。私立幼稚園PTA連合会は、これまでも陳情を市長に対して行っていたが、この事態に対し署名活動を行い「保育料助成制度(月額一〇〇〇円)」の条例を求める直接請求を行った。請求に必要な四倍以上もの署名が集まり、市議会で審議されたが、板垣武四市長は意見書において条例制定に否定的な考えを述べた。すなわち、公費をもって保護者に対し補助金を交付することは、幼児を幼稚園に就園させることのできない保護者との間に甚だしく均衡を欠くことになる、また一律に保護者に対し補助金を交付することは、いわゆる家計費補助的色彩が強いところから適当でない、というのである。市議会においても条例案は否決されたが、市では四十七年度より従来の運営費・研修費補助に加え、新たに私立幼稚園振興費補助金の名目で、私立幼稚園児一人あたり一律年額一〇〇〇円の補助を行うことになった。その後補助金は年度を経るにしたがって増額された。たとえば、四十九年度には三、四歳児は三〇〇〇円、五歳児は四〇〇〇円であった。
五十二年度から五十三年度にかけては、「私学の生徒・園児に対する教育費補助に関する条例案」について直接請求が出された。この条例は幼稚園だけではなく、私学に在籍することの多い高等学校、そして中学校も含めて、補助金を支給するようにというものである。直接請求に必要な数の一〇倍を超える署名が集まり、市議会での論議が行われた。しかし幼稚園助成の条例化において問題となった一律助成への反対などを板垣市長が表明し、議決の結果市議会においても否決された(十四期小史)。ただしその後も私学補助は増加してきている。