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札幌の七福神めぐり

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 旅行会社の企画する旅行商品のなかでも、巡礼には根強い人気がある。最近は、巡礼に参加した人々の体験談も出版されるようになり、そこには肉親の死や失職、離婚のような社会関係解体の危機と、それにともなうアイデンティティのゆらぎが赤裸々に記述されている。絶望の淵に立たされ、明日からどうやって生きて行こうか思い悩んだ末、巡礼に参加する人も少なくないのである。研究者の間では、巡礼に参加した者同士の神秘体験の共有や、ある種の癒しに興味関心が集まっている。
 巡礼といえば四国八十八ヶ所や西国三十三ヶ所が代表格であるが、札幌にも同種の札所めぐりがあって、いずれも盛況を呈(てい)している。市内にある「北海道十三仏霊場」(事務局は誓願寺・中央区南一三条西九丁目)、および「北の都七福神霊場」(表10参照)の一つ「象頭山金毘羅密寺」(西区宮の沢一条五丁目)には、元旦から三日間行われる「北の都札幌七福神めぐり」だけで市内および近郊から二〇〇~三〇〇人が参詣に訪れる。その多くは旅行会社のバスツアーの参加者で、参詣者の数は年々増えているという。
表-10 北の都札幌七福神
七福神名寺院名所在地
恵比寿尊天、布袋尊金毘羅密寺西区宮の沢1条5丁目23-21
大黒天立江寺石狩市花畔1番地1
寿老人真言密寺江別市向ヶ丘24番10
弁財天誓願寺中央区南13条9丁目716
毘沙門天隆光寺中央区円山西町2丁目22-1
福禄寿光照寺中央区円山西町2丁目22-1
福禄寿は隆光寺内にて参拝。「札幌七福神めぐり」北の都札幌七福神霊場会事務局より転載。

 金毘羅密寺の山門をくぐって真新しい社殿に入ると、桂材で彫ったという巨大な文殊大菩薩に圧倒される(札幌大仏・七メートル)。同寺副住職は「北海道には大仏参拝の歴史がない」ことが大仏開眼のきっかけで、「これを機に大勢の方々が仏教文化を見直し、お寺に足を運ぶようになればとの思いがあった」と語る。平成十六年七月十一日には、札幌大仏開眼一周年記念例大祭も催された。
 北海道十三仏霊場めぐりは、札幌市をはじめ五市五町一村、総行程六〇〇キロメートルにおよぶ広大なものだが、北の都七福神霊場めぐりは札幌市とその近郊の石狩市、江別市までの範囲である。開運招福の願いを込めて各霊場の宝印を戴く七福神めぐりは、スタンプラリーやウォーキング感覚も手伝って気軽に参拝できる巡礼であり、商売繁盛や合格祈願などの現世利益的ニーズに応えている(写真9参照)。
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写真-9 北の都七福神霊場めぐりの色紙

 子どもを持たない夫婦や生涯結婚しない単身者、身寄りのない高齢者が増加している現代社会において、巡礼には特別な意味があるように思える。確かに巡礼は宗教行為には違いないが、四国遍路に見るように、遍路はそれを支える先達、お接待、遍路宿など、社会と有機的に結びつくことで成立してきた。巡礼という非日常的行為を通して自然や人と触れ合い、それらが日常性回復の装置として機能することで、無縁に対する不安をも乗り越えることが可能となるのである。
 社会システムとして巡礼を捉えたときには、その過程で得られる情報が重要であることに気づく。歩いてみるとそのことがよく分かる。沿道に立ち並ぶ商店や祭りの賑わいなど、見たり聞いたりすることのすべてが、自分を取り戻す絶好の機会と成り得る。巡礼が取り持つ縁の重要性を再認識すべきではないだろうか。