土地に関する統計
本稿を草するにあたって,先行する自治体史の統計編を参照したが,他の部門と異なり土地に関する統計は,作表や解説の仕方にまったく個性を見出すことができなかった。解説についてみると,そもそも解説をまったく欠くものや,部門別の解説を欠くものをおくと,地租改正の説明に終始したり,行政区画の変遷を述べたり,せいぜい官有地と民有地の面積等の数値を当該自治体と全国とで比較するにとどまっており,中には土地部門のみ解説を省いているものもあった。このように,土地に関する解説は書きにくいというのが正直なところであろうが,以下に土地に関する統計資料について述べることにする。
土地に関する統計表を作成するにあたっては,『札幌市(区)統計一班』に依拠して,①種別(土地所有別,課税区分別)土地面積(1906~38),②官有地所有別面積(1909~22),③民有地所有別面積(1921~38),④民有地地目別面積(1909~38),⑤民有地地価(1907~36)の各表を作成した。また,札幌区(市)以外の町村については,町村勢要覧の残存状態にばらつきが大きく,まとまった形で作表することが困難であったため,琴似村の分のみを作成した。
以下に若干の補足説明を加えると,第一に官有地と民有地の区分について,法規上の根拠を明らかにできないことを遺憾とするが,明治のある時期まで官有地は第1種~第4種に,民有地は第1種~第2種に区分され,それぞれ地目別に面積が計上されていた。先行研究によれば,官有地第1種とは「皇宮地」「神地」,第2種「官用地」,第3種「田」「畑」「原野」等のうち民有地でないもの,第4種「寺院」「病院」「学校」等の敷地で民有地でないものであった。他方で民有地第1種とは「人民各自所有ノ確信アル耕地宅地山林等」,第2種「官有ニアラサル学校病院(中略)社寺等」であった。『明治廿一年札幌区役所統計概表』(1889)及び『明治二十二年札幌区役所統計概表』(1890)にはこのような区分が行われているが,『札幌一覧』(1907)になると所有区分別に変わり,さらに1923年(大12)以降の『札幌市統計一班』には官有地面積として一括して計上されるようになった。これとは逆に民有地面積は1921年以降新たに私有,市有,公共団体有,地方費有という所有別区分で計上されるようになるが,これらの事実は全体として,官有地の重要性の低下と民有地のそれの高まりを示しているものと思われる。
第二に民有地の課税区分別について,やはり先行研究によれば,「民有有租地」とは地租が課せられる土地であり,「民有無租地」とは本来地租を課すべき土地であるが,学校用地,社寺地,公用地等主として産業保護政策上の理由から地租の賦課が免除される土地であり,「年期地」とは新開地等の土地で,一定期間に限って地租の賦課が免除される土地をいう。
土地処分
明治初期の一連の土地政策によって「無主の地」とみなされ,国有地に編入された膨大な面積の未開地は,北海道庁成立直後の1880年代後半から,開道50年を迎える1918年(大7)頃までの約30年間にほとんど処分され,道内から「自由な土地」は消滅し,土地の私有化が急激に進行した。近代の北海道における土地問題といえば,このような土地処分の問題を避けるわけにはいかないが,これに関連する法規類を集約したものとして,北海道庁内務部殖民課『北海道土地処分案内』がある。土地処分を論じた文献は枚挙に暇がないほどであるが,管見の限りでは上原轍三郎の一連の論考(後述)が詳細を極めている。これによれば「北海道開拓の土地制度は,土地取扱に関する規律の如何によって之れを五期に分って考えることが出来る」として,第1期は明治の初めから1872年(明5)までであり,まだ何ら確定的な土地規則が定まっていなかった時期であり,以下,第2期は1872年から1886年(明19)までで,1872年の太政官布告304号「北海道土地売貸規則」が,第3期は1886年から1897年(明30)までで,1886年の閣令第16号「北海道土地払下規則」が,第4期は1897年から1908年(明41)までで,1897年の法律第26号「北海道国有未開地処分法」が,第5期は1908年以降であり,同年の法律第57号「北海道国有未開地処分法」が,各々制定公布され,それらに基づき土地処分が行われた。
しかし,札幌地域の土地処分についての資料は至って乏しいものである。表は第3期に行われた「北海道土地払下規則」に基づく土地処分のデータを示したものであるが,札幌区の土地処分の一端を知るにとどまる。この表中「貸下地」は「事業成功の後払下を為すことを目的として無償貸下を為したる土地」,「返地」は「事業成功せずして返納を命ぜられたる土地」,「譲渡地」は「不得止事故により譲渡したる土地」,「払下地」は「事業成功の後払下げたる土地」である。札幌市(区)以外の町村の土地処分についてはまとまった資料を見出すことはできなかったが,第2期に行われた地租創定事業などについては,『市史』第3巻通史3の,第3期に行われた殖民地の選定と区画の設定については同書及び『札幌百年のあゆみ』の記述を参照されたい。以下に土地処分についての参考文献を付記する。
北海道庁内務部殖民課『北海道土地処分案内第一』(1895),同『第二』(1896),同『第三』(1897),同『第四』(1897),同『第五』(1898),同「第六」(1899),上原轍三郎「北海道開拓極初期に於ける土地制度」『北海道帝国大学法経会論叢』第6輯,同「北海道開拓初期に於ける土地制度」『北海道帝国大学北方文化研究報告』第1輯,同「北海道開拓第三期に於ける土地制度」同前第3輯,同「北海道開拓第四期に於ける土地制度」同前第5輯,同「北海道開拓第五期に於ける土地制度と第一期より第五期に至る総括的結論」「北海学園大学経済論集」2
「北海道土地払下規則」に基づく土地処分(札幌区)
『北海道庁統計綜覧』より作成。